なぜ削り出しで作るのか|鋳造・鍛造と比べて、何が残り、何を捨てているか

カーパーツの商品ページを見ていると、「CNC削り出し」という言葉に何度もぶつかります。アルミ削り出し、フルビレット、切削加工。言い方はいろいろですが、どれも同じことを指しています。そして多くの場合、その言葉は「だから良い」という意味で使われています。
ただ、買う側の立場で考えると、これはあまり親切な情報ではありません。削り出しでない作り方が何なのか、それと比べて何がどう違うのか、値段や手触りにどう出るのか——そこが書かれていないので、判断のしようがない。同じような形のノブが、片方は数千円、片方は一万円を超えている理由も、言葉だけでは分かりません。
この記事では、アルミの部品の作り方を三つ並べて、それぞれが何を得意としているのかを整理します。そのうえで、私たちがなぜ削り出しを選んでいるのかを、製法の優劣ではなく数量と設計変更のしやすさという理由から説明します。削り出しで残るもの、捨てているもの、そして「削り出しと書いてあれば良い」ではないことと、写真から面を見分ける方法まで書きます。
同じ形のアルミの塊でも、作り方で手触りが変わる
先に、いちばん大事なところを書きます。まったく同じ図面から作った、同じアルミ合金の、同じ形の部品でも、作り方が違えば手に伝わるものは変わります。
変わるのは、主に三つです。ひとつは面のなめらかさ。もうひとつは稜線——面と面が出会う線の鋭さ。そして面と面のつながり方です。三つめが分かりにくいと思いますが、たとえば球から円筒へ移り変わる部分で、その移り変わりが連続しているか、途中でわずかに折れているか、という話です。
これらは、指では意識できないほど小さい差です。それでも、手はちゃんと読んでいます。指先は、面の傾きが変わる速さの違いを拾える器官です。握った瞬間に「なんとなくいい」と感じるかどうかは、たいていここで決まっています。
量産車の内装をやっていた頃、社内の評価会に同じ形の試作を作り方違いで並べて出すことがありました。見た目はほとんど区別がつきません。それでも、目を閉じて触ってもらうと、評価は割れます。誰も理由を言葉にできないのに、選ばれる個体はいつも同じ。作り方の違いは、そういう形で表に出てきます。
三つの作り方をざっくり並べる:型に流す/型で叩く/塊から削る
アルミの部品を作る方法は、大きく三つに分けられます。専門用語はできるだけ避けて書きます。
| 作り方 | 何をしているか | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|---|
| 鋳造(ちゅうぞう) | 溶かした金属を型に流し込んで固める | 複雑な形を一度に作れる。数が多いほど安い | 型を作る費用が先に要る。細かい面の詰めは後加工頼り |
| 鍛造(たんぞう) | 金属を型に入れて強く圧す・叩く | 金属の組織が詰まり、強さが出やすい | 型が要る点は同じ。形の自由度に制限がある |
| 削り出し(切削) | 金属の塊から、要らない部分を削り落とす | 型が要らない。図面を直せば次の一個から形が変わる | 材料と時間を大量に使う。数が増えても安くなりにくい |
この表で押さえていただきたいのは、優劣が書かれていないことです。どれが良い作り方かは、何を何個作るかで決まります。鋳造で作られた部品が安物だということはありませんし、削り出しなら必ず良いということもありません。
量産の現場では、数が多いほど型を作るほうが安くなる
私たちは以前、量産車の内装を設計していました。あの世界で削り出しが選ばれることは、ほとんどありません。理由ははっきりしています。数が多いからです。
型を作るには、まとまった費用と時間がかかります。ただ、いったん型ができてしまえば、一個あたりの費用は下がっていきます。作る数が多ければ多いほど、最初にかかった型の費用は薄まっていく。何万個も作る前提であれば、型を作らない理由がありません。
削り出しは、この逆です。一個目も、千個目も、削るのにかかる時間はほとんど同じ。だから数を増やしても、一個あたりの費用があまり下がりません。量産の原価企画の場で削り出しを提案したら、その場で却下されます。私も昔、何度か却下される側にいました。
裏を返すと、こういうことです。数が少ない世界では、この計算がひっくり返る。型を作る費用を薄める相手がいないなら、型を作らないほうが安く済むのです。
この境目がどこにあるかは、部品の大きさや形の複雑さで変わるので、一概には言えません。ただ、考え方としては単純です。型の費用を、作る個数で割ってみる。その額が、一個を削るのにかかる時間の費用より安ければ型が有利、高ければ削り出しが有利。私たちのように少しずつ作る作り手は、たいてい後者の側に立っています。
私たちが削り出しを選ぶ理由:数が少ないことと、形を直せること
私たちが削り出しを選んでいる理由は、ふたつです。ひとつは、いま書いた数量の話。もうひとつは、形を直せることです。そして正直なところ、開発をやっている人間としては、二つめのほうが大きい。
型を作ってしまうと、形は固定されます。試作を握ってみて「ここのRをもう少し大きくしたい」と思っても、型を直すには費用と時間がかかる。だから型の世界では、形を決め切ってから型を起こします。当然、決め切るまでの検討が長くなります。
削り出しなら、データを直せば次の一個から形が変わります。今日削ったものを自分の車に付けて帰り、一週間乗って、気になった部分を直して、また削る。この往復が、私たちのやり方の中心にあります。スケッチからCNCまでの流れは手描きスケッチからCNCまでに書きました。
この差は、量産の開発期間の長さの理由でもあります。型を起こしてしまえば後戻りできないので、起こす前に全部決めなければならない。決めるために会議が積み重なる。私たちの場合は、決めるかわりに削って握ることができます。三人しかいないので会議はすぐ終わり、そのぶん試作の回数が増える。増えた試作をどう見極めているかは試作は、机ではなく通勤路で決まるに書きました。人数の少なさが、この製法とかみ合っているとも言えます。
S22 タワーブラック(¥5,800)は、この往復の産物です。素材はアルミニウム合金、色は黒、重さは225g。すっと上に伸びたシルエットで、当店のノブの中ではいちばん重い部類に入ります。細長い形は、型で作るとなると抜き方向の制約が厳しくなるところですが、削り出しなら制約はほぼありません。
削り出しで残るもの、捨てているもの
削り出しで残るのは、面の情報量です。刃物が通った軌跡が、そのまま面になります。だから、設計データで面がなめらかにつながっていれば、その連続性が製品にそのまま出る。稜線も、刃物の当て方次第で鋭くも柔らかくもできます。
面をどう仕上げるかという話は、そのまま指の感触の話でもあります。S08 ダイノボール(¥5,800/アルミニウム合金とPP素材、ブラウン、110g)のように、削り出した金属の部分と、別素材の球を組み合わせるものもあります。触れる面の大半が金属でない場合でも、下側の金属部分の面の作りは、握ったときの安定感に効いてきます。
そして、削り出しには必ず工具の跡が残ります。刃物が一定の間隔で面をなぞっていくので、細かい筋が付く。これを完全に消すこともできますが、消すには時間がかかり、そのぶん価格に乗ります。私たちは、触れる面と触れない面で扱いを分けています。手のひらが当たる面は跡が気にならないところまで詰め、内側や見えない面はそこまでやらない。この線引きは検品にもそのまま持ち込んでいて、傷がどの部位にあるかで許容が変わる話にまとめました。どこを詰めてどこを詰めないかを決めるのも、設計の仕事です。跡がまったく無い面だけが良い面、というわけでもありません。
捨てているものも、はっきりしています。材料と、時間です。削り出しは、大きな塊を用意して、その大半を切り屑に変える作り方です。製品として残るのは、買った材料の一部でしかありません。そして機械の中で刃物が回っている時間は、そのまま費用になります。
この二つが、価格に出ます。数千円のノブの中身に何が入っているかは5,800円のシフトノブの中身で分解して書きましたが、要するに材料と加工時間が価格の柱になっている、ということです。
平らな板の部品でも事情は同じです。A03 アルミ フットプレート(¥4,800)は、サイズ280mm×160mm、厚み2mm、材質は高強度アルミニウム。滑り止めの穴が並ぶ形状で、フロアマットを保護しながら左足の支点を作ります。汎用設計のため、装着には車種に応じた加工が必要な場合があります。
「削り出し」と書かれていれば良い、ではない
ここまで削り出しの話をしてきましたが、最後に釘を刺しておきます。削り出しであることは、品質の保証ではありません。製法は、どんな形を作れるかの上限を決めるだけです。上限まで使うかどうかは、設計と加工の詰め方によります。
雑に削れば、雑な削り出し部品ができます。面のつながりを詰めずにデータを起こせば、削り出しでも折れた面になる。だから「CNC削り出し」という表記だけで選ぶのは、あまり意味がありません。
では何を見るか。写真の中の、明るい帯を見てください。金属の丸い面には、光源が細長く映り込みます。この帯が、面の上をすっと一本の線として通っているなら、面はなめらかにつながっています。帯が途中で切れていたり、折れ曲がっていたり、太さが急に変わったりしていたら、そこに面のつなぎ目があります。
もうひとつは、稜線を見ることです。角が意図をもって処理されているか、それとも「とりあえず面取り」で済まされているか。角の処理は、設計者がどこまで考えたかがいちばん出る場所です。同じ幅で全周に面取りが入っているだけの部品と、場所ごとに幅を変えている部品では、握ったときの手当たりがまるで違います。寸法の考え方については公差と「はめあい」の話もあわせてどうぞ。
逆に言えば、鋳造や鍛造で作られていても、そのあとの仕上げを丁寧に詰めた部品は、手に取れば分かるほど良くなります。製法は入口であって、答えではありません。私たちが削り出しの話を長く書いているのは、それが唯一の正解だからではなく、自分たちが何を選び、その代わりに何を諦めているのかを開示しておきたいからです。
まとめ——確認する順番
製法は、価格と手触りの理由を説明してくれますが、良し悪しそのものではありません。次の順番で見てみてください。
- 何を何個作る部品かを想像する。数が多い部品なら型を作るほうが合理的で、数が少ないなら削り出しが合理的です。
- 「削り出し」の四文字で判断しない。製法は上限を決めるだけで、仕上がりを保証しません。
- 写真の明るい帯を追う。丸い面に映り込む光の帯が、途中で折れずに一本で通っているか。
- 角の処理を見る。稜線が意図をもって立てられているか、落とされているか。
- 価格の理由を材料と時間で考える。削り出しは材料の大半を切り屑にし、機械の時間を使います。その二つが価格の柱です。
- 実物を握ってから決める。面のつながりは、写真より手のほうが正確に読みます。
削り出しは、私たちにとって「良い作り方」ではなく「いまの作り方に合った作り方」です。三人で設計して、少しずつ作って、握って直す——そのやり方を続けるかぎり、この製法から離れる理由がありません。シフトノブの一覧を見るときも、まずは光の帯を追ってみてください。
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