指は、Rの違いを読んでいる|面の曲がり方が握り心地を決めるという話

シフトノブを探していると、どれも似たような球に見えてくる瞬間があります。写真を並べても、直径が同じくらいなら差が分からない。素材と色と重さは書いてあるけれど、握り心地については「手に馴染む」としか書かれていない。それはどの商品ページにも書いてあるので、判断の材料になりません。
ところが実際に握ってみると、はっきり違います。同じくらいの大きさの球を二つ用意して、目を閉じて交互に握ってもらうと、ほとんどの人がどちらかを選びます。しかも、理由を聞くと言葉に詰まる。「こっちのほうが、なんとなく」で終わってしまう。手は差を読み取っているのに、頭がその差を名前で呼べない——このずれが、シフトノブ選びをむずかしくしています。
この記事では、その「なんとなく」の正体を、量産車の内装をやってきた側の語彙で説明します。手のひらが読んでいるのは大きさではなく、面の曲がり方であること。曲がり方が一定の面と、途中で変わる面の違い。面と面のつなぎ目の処理が印象を決めること。そして最後に、商品写真から面の曲がり方を読む方法——ハイライトの帯を見るという、その場で使える観察法をお渡しします。
同じ直径の球を二つ握らせると、人は必ずどちらかを選ぶ
試作を評価するとき、私たちはよくこれをやります。同じくらいの大きさの試作を二つ並べ、目を閉じた状態で交互に握ってもらう。すると、好みは必ず分かれます。分かれるだけでなく、同じ人は何度やっても同じほうを選びます。気分で揺れているわけではないのです。
面白いのは、その人に理由を聞いても答えが返ってこないことです。「大きさですか」と聞くと「いや、同じくらいですよね」と言う。「重さですか」と聞くと「重さじゃない気がする」と言う。それでも選択は一貫している。
この現象は、内装の開発では珍しくありません。触感の評価は、言葉になる前に終わっています。だから設計側は、言葉になっていない差を、寸法の言葉に翻訳する作業をすることになります。翻訳先の語彙が、この記事の主題です。
翻訳ができないと、開発は止まります。「なんとなくこっち」で決まった形は、次に作るときに再現できないからです。良かった理由が寸法で言えて初めて、その良さは次の製品に引き継げます。逆に言うと、読んでいる方にとっても、この語彙を持っておくと選ぶ精度が上がります。前に良かったノブの、どこが良かったのかを言葉にできるからです。
手のひらが読んでいるのは、大きさではなく面の曲がり方の変化
手が何を読んでいるかを、順に整理します。
まず、手のひらは面に対して点でなく、広い範囲で触れます。ノブを握ると、手のひらの真ん中、指の付け根、指の腹、親指の内側——同時にいくつもの場所が、別々の傾きの面に触れている。それぞれの場所が受け取る圧力の強さも、面の傾きによって違います。
ここで効いてくるのが、面の曲がり方です。面が急に曲がっている場所では、接触が狭い範囲に集まり、圧力が高くなる。ゆるやかに曲がっている場所では、接触が広がり、圧力が下がる。手のひら全体では、この圧力の分布として形が伝わってきます。
つまり、握り心地というのは「大きさ」の話ではなく、手のひらの上で圧力がどう散っているかの話です。同じ直径でも、曲がり方の配り方が違えば、圧力の散り方が変わる。目を閉じて選ばせたときに答えが割れるのは、そのためです。
手がもうひとつ敏感なのは、面の傾きが変わる速さです。指をゆっくり滑らせたとき、途中で向きが急に変わる場所があると、そこで指の腹にかかる圧力が跳ねます。跳ねが小さければ「なめらか」と感じ、大きければ「角がある」と感じる。設計の側が図面の上で見ているのは、この跳ねの大きさを一定の幅に収められているかどうかです。
握り方そのものによって、どこに圧力を受けたいかも変わります。指でつまむように操作する人と、手のひら全体で押す人では、正解の面が違う。ここは握り方から選ぶシフトノブの形に整理しました。
曲がり方が一定の面と、途中で変わる面
設計の現場では、面の曲がり方をR(アール)と呼びます。曲率半径の頭文字で、要するに「その面が、どれくらいの大きさの円の一部として曲がっているか」を表す数字です。Rが小さいほど急に曲がり、Rが大きいほどゆるやかに曲がります。
ここからが本題です。面には、Rが最初から最後まで一定のものと、途中で変わっていくものがあります。完全な球は前者です。どこを触っても曲がり方が同じ。後者は、たとえば上のほうはゆるやかで、下に向かうにつれてだんだん急になっていくような面です。
| 面の性格 | 手が受け取るもの | 向いている使われ方 |
|---|---|---|
| Rが一定(球に近い) | どこを触っても同じ。位置の手がかりが少ない | 握る位置を毎回変えたい人。手が自由に動く |
| Rが連続して変わる | 触れている場所ごとに情報が違う。位置が分かる | 毎回同じところを握りたい人。手が落ち着く |
| Rが急に切り替わる | 切り替わりが線として指に当たる | 意図した位置に指を導きたいとき |
三行目に注意してください。Rが「連続して変わる」のと「急に切り替わる」のは、まったく別のことです。前者は指を撫でても引っかかりがなく、それでいて場所ごとの手応えが違う。後者は、切り替わったところが一本の線として指に当たります。この線が意図されたものなら手がかりになりますが、意図せずできてしまった線は、ただの引っかかりになります。
S18 ズミノブ(¥5,800)は、Rが連続して変わっていく側の形です。素材はアルミニウム合金、色はシルバー、重さは165g。無駄を削ぎ落としたスリムなシルエットで、上から下へ向かって面の曲がり方がゆるやかに変化していきます。手のひらに収まったとき、どこを握っているかが分かる。S19 ズミノブ ブラック(¥5,800/アルミニウム合金、ブラック、165g)は同じ形で色違いです。
面と面のつなぎ目に、どれくらいのRを入れるか
次は、面と面が出会う場所の話です。ここが、設計でいちばん時間を使うところでもあります。
二つの面が出会うと、そこに稜線ができます。この稜線をどう処理するかで、選択肢は三つあります。鋭く立てる、大きく丸める、その中間で小さく丸める。言葉にすると単純ですが、この選択が製品の印象をほとんど決めてしまいます。
- 鋭く立てる。形の輪郭がはっきりします。光がそこで切れるので、写真映えもする。ただし、頻繁に触れる場所に立てた稜線は、時間が経つと気になり始めます。
- 大きく丸める。手当たりは柔らかくなりますが、丸めすぎると元の面がどこにあったのか分からなくなり、形がぼやけます。
- 小さく丸める。指では角を感じないのに、見た目には線が残る。多くの場面で、これが答えになります。
問題は、この「小さく」の程度です。少し変えるだけで、印象は大きく振れます。丸めを大きくしていくと、ある地点から急に「柔らかい製品」に見え始める。逆に小さくしていくと、ある地点から「硬い製品」に変わる。その境目は計算では出せず、削って触るしかありません。
S20 フラットトップ(¥5,800/アルミニウム合金、ブラック、185g)は、天面が平らな形です。平らな面と側面が出会う稜線が、この製品の性格をほぼ決めています。ここを鋭くすれば操作の方向がはっきりし、丸めれば手当たりが優しくなる。どちらに振るかを決めるのに、いちばん時間がかかりました。
ここでひとつ、実用的な目安を挙げておきます。触れる頻度が高い場所ほど、稜線は丸める方向に振ったほうが後悔しにくい。展示会で一分だけ触る部品なら、鋭い稜線は魅力になります。でもシフトノブは、毎日何十回も同じ場所を触る部品です。初日に格好いいと思った角が、二週間後には気になる場所に変わる。この時間差は、何度も経験しました。
純正のノブが、なぜこの手の稜線を持ちにくいのかについては純正シフトノブの設計制約に書きました。型で作る部品には、抜き方向という制約がついて回ります。
スケッチでは決まらない。握って決めている
ここまで書いておいて言うのも変ですが、面の曲がり方は、絵の段階では決まりません。スケッチで描けるのはシルエットまでです。稜線をどれくらい丸めるか、面のRをどこでどう変えるかは、紙の上では判断できません。
だから私たちは、削って握ります。データを作り、削り出し、手に取る。気になったところを直して、また削る。ときには手で削って形を確かめることもあります。目より手のほうが、この種の差については正確です。
そして重要なのは、判断を一日で終わらせないことです。削り上がった直後に握った印象と、一週間使ったあとの印象は、しばしば入れ替わります。最初は良いと思った稜線が、毎日触っているうちに気になり始める。この時間差を織り込むために、試作は自分の車に付けて日常で使うようにしています。
表面の仕上げも、面の読み方に影響します。同じ形でも、艶がある面と艶を落とした面では、光の映り方が変わるので印象が変わる。手の脂の付き方も違います。この話は表面仕上げと指紋の付き方にまとめました。
写真から曲率を読む:ハイライトの帯の細さを見る
最後に、実物を握れない場面で使える方法をお渡しします。商品写真の、明るく光っている帯を見てください。
金属や艶のある面には、周りの光源が細長く映り込みます。この明るい帯——ハイライトの形が、面の曲がり方をそのまま表しています。読み方は三つです。
- 帯が細いほど、その場所は急に曲がっている。Rが小さいということです。逆に、帯が太くゆったり広がっていれば、そこはゆるやかな面です。
- 帯の太さが上から下へなめらかに変わっているなら、Rが連続して変化している面です。太さが一定なら、曲がり方も一定に近い。
- 帯が途中で急に切れたり、折れ曲がったりしていたら、そこに面のつなぎ目があります。意図された切り替えか、詰め切れなかった継ぎ目かは、その線が形の流れに沿っているかどうかで見当がつきます。
この見方は、シフトノブに限らず、金属や樹脂の艶のある部品すべてに使えます。慣れてくると、写真を見た瞬間に「この面は途中で変わっているな」と分かるようになります。シフトノブの一覧の写真で、ぜひ試してみてください。
まとめ——確認する順番
握り心地の差は、感覚の問題ではなく、面の設計の問題です。次の順番で見てみてください。
- まず、自分の握り方を確認する。指でつまむか、手のひらで押すか。正解の面は、握り方によって変わります。
- 大きさで比べるのをやめる。直径が近い製品どうしの差は、大きさではなく面の曲がり方から来ています。
- 写真のハイライトの帯を追う。細い帯は急な面、太い帯はゆるやかな面。太さの変わり方が、面の性格です。
- 帯が折れている場所を探す。そこが面のつなぎ目です。形の流れに沿っているかを見てください。
- 稜線の処理を見る。鋭いか、大きく丸いか、小さく丸いか。触れる頻度が高い場所ほど、ここが効いてきます。
- 手に入れたら、一週間使ってから評価する。初日の印象と一週間後の印象は、しばしば入れ替わります。
「なんとなくこっちがいい」という感覚は、正確な感覚です。ただ、それを言葉にできると、次に選ぶときの精度が上がります。指が読んでいるのはRだった——そう思って写真を見直すと、同じに見えていた球が、それぞれ別の顔をして見えてくるはずです。
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