出荷前に、私たちが見ているところ|検品という地味な工程の中身

小さなメーカーのカスタムパーツを買うとき、多くの人が一度は考えることがあります。この値段で、ちゃんと検査はされているのだろうか。大きな工場のように全数を機械で測っているとは思えないし、かといって何も見ずに箱に入れているわけでもないだろう。レビューを読んでも「良かった」と「思ったより雑だった」が並んでいて、当たり外れがあるのだろうか、という不安だけが残る。
作っている側から言えば、この不安はまっとうです。私たちは量産車の内装部品を手掛けてきましたが、量産の検査と小ロットの検査は、性質からして別物でした。量産では「工程が安定しているか」を統計で確かめる。小ロットでは、一点ずつを人が見て決める。前者は仕組みの話で、後者は判断の話です。判断が入るということは、判断の基準を先に書いておかないと、日によってぶれるということでもあります。
この記事では、当店のシフトノブやエクステンションが箱に入るまでに、私たちが実際に何を見ているかを順に書きます。検査項目をどこから逆算して作るのか、目で見る検査と指で触る検査がなぜ別物なのか、ネジをどう見るか、木のように一点ずつ違う素材をどこまで揃えるのか、そして「落とす」判断の基準と、それでも見逃しが出たときの連絡の仕方まで。地味な工程ですが、値段の裏側にあるのはだいたいこの部分です。
箱を開けた人が最初に触る面から、逆算して検査項目を作る
検査項目の作り方には二通りあります。図面の寸法を上から順に全部見ていくやり方と、使う人の手の動きから逆算するやり方です。私たちは後者を採っています。理由は単純で、前者だと項目が増えすぎて、結局どれも浅くしか見なくなるからです。
シフトノブが箱から出てくるとき、人の手が触れる順番はだいたい決まっています。まず、上から包みを開けてノブの頭を親指と人差し指でつまむ。次に持ち上げて、手のひら全体で握る。それから裏返してネジ穴を覗く。アダプターを探して、差し込んで回す。最後にレバーに付ける。この五つの動作それぞれに、対応する検査項目があります。開けた人が最初に触る面から考えるという点では箱の詰め方も同じ発想で、届くまでの数日を何から守っているかは箱の中身も設計するに書きました。
| 買った人の動作 | そこで気づかれる不具合 | 検査でやること |
|---|---|---|
| 頭をつまむ | 頂点付近の打痕、指紋状のムラ | 斜め光で頭頂部を見る |
| 手のひらで握る | 稜線のバリ、面のうねり、段差 | 素手で握り、指を滑らせる |
| ネジ穴を覗く | 切りくず、ネジ山の潰れ | 穴を光にかざす |
| アダプターを差して回す | 渋さ、途中で重くなる | 最後までねじ込んで戻す |
| レバーに付ける | 座面の当たり不良、ガタ | 座面を平らな面に当てる |
面白いのは、この順番で見ていくと、図面から作った項目表では下のほうに埋もれていた項目が上に来ることです。たとえばネジ穴の入口の面取り。図面上はごく小さな指示ですが、買った人が四番目にやる動作の成否をほとんど一人で決めています。逆に、図面では重要そうに見えても、誰の手も触れず、誰の目にも入らない面がある。そこに時間を使うより、頭頂部に一分多く使ったほうが満足度は上がります。
この表の左側は、私たちが決めたことではありません。買った人が勝手にそうするだけです。だから項目は増えも減りもせず、優先順位が自然に決まります。量産の現場で使っていた考え方をそのまま持ち込んだ部分で、当時は「お客様の手順で見る」と呼んでいました。
目で見る検査と、指で触る検査は別物
意外に思われるかもしれませんが、指のほうが目より細かい段差を拾います。目は、光の当たり方が良くないと段差を見落とします。指は、光に関係なく引っかかりを感じ取る。逆に、色のわずかな違いや面のうねりは、指ではまったく分かりません。だから両方やります。
触る検査には作法があります。指先の腹を軽く当てて、ゆっくり滑らせる。強く押し付けると、皮膚が変形して段差を埋めてしまい、かえって分からなくなります。速く動かしても拾えません。ゆっくり、軽く。これは工業デザインの学校でも最初に教わることで、クレイモデルの面を確かめるときの手つきと同じです。
見る検査のほうは、光の当て方がすべてです。真正面から照らすと、面はきれいに見えます。斜めから低い角度で光を当てると、同じ面に細かい傷やうねりが浮かび上がります。私たちは、蛍光灯の映り込みが細長い線になる角度で持ち、その線が途中で曲がったり途切れたりしないかを見ます。線がまっすぐ流れれば面は連続していて、線が折れればそこに段差があります。
S12 ダイノボール エクステンション(¥7,800)のように、全長130mm(フル装着時)と90mm(上部パーツ単体)の2段階に組み替えられる構造の製品は、この検査を組んだ状態と分けた状態の両方でやります。分けたときにだけ見える面があり、そこは組んだら見えないから手を抜く、というわけにいきません。買った人は必ず一度は分けます。素材はアルミニウム合金とサンダルウッド(白檀)、色は茶、重さは130g、ノブ本体ネジは M18×P1.5 です。
ここで一つ、正直に書いておきます。照明は同じものを使い続けます。日によって窓際で見たり作業灯で見たりすると、同じ製品が違って見えます。基準を安定させるために、見る場所と光源は固定しています。地味ですが、これをやめた途端に判断はぶれます。
ネジは「入るか」ではなく「まっすぐ入って、最後まで軽いか」で見る
ネジの検査で、いちばんやってはいけないのが「入ったから合格」にすることです。入るかどうかだけなら、少し無理をすれば入ってしまいます。問題は、その無理が買った人の手元で顕在化することです。
見るのは三つです。
- 入り始めがまっすぐか。斜めに掛かると、最初の一回転で抵抗が出ます。ここで引っかかるものは、ネジ穴の入口に切りくずが残っているか、面取りが足りていません。
- 最後まで重くならないか。途中まで軽くて終わりだけ重い、というのが最も見つけにくく、最も嫌な症状です。ねじ込みきる手前で止めず、必ず最後まで入れて、そこから戻します。
- 戻すときに軽いか。入るときは軽くても、戻すときに渋いことがあります。これはネジ山が一部潰れている合図です。
当店のシフトノブは、本体側のネジを M18×P1.5 に統一し、車側のネジ径は付属アダプターで受けます。付属するのは M8×P1.25/M10×P1.25/M10×P1.50/M12×P1.25 の4種類です。この方式には検査上の利点があって、本体側は一種類だけ見ればよい。同じゲージを使い回せるので、判断がぶれません。逆にアダプター側は4種類あるので、取り違えが起きないよう、種類ごとに分けて数を確かめてから同梱します。
なお、レバー側のネジ径はメーカーでは決まりません。同じ車種でも型式・年式・ミッションで変わり、確定しているのはマツダ車の M12×P1.25 だけです。届いてから「アダプターが合わない」となる原因のほとんどは製品ではなく、この確認が抜けていることです。純正ノブを外して、レバー側の外径を測ってください(およそ8mmならM8、10mmならM10、12mmならM12)。
木や革のように、一点ずつ違う素材をどこまで揃えるか
金属だけの製品なら、検査は寸法と表面の話で終わります。難しくなるのは天然素材が入るときです。木は、同じ丸太から採っても一本ずつ木目が違い、色の濃さも違う。そこに「揃っているか」という物差しをそのまま当てると、ほとんど全部が不合格になります。
私たちの立場は、揃えるのは加工、揃えないのは素材です。木の外径や面の仕上がりは加工なので揃えます。木目の流れ方や色の濃淡は素材なので揃えません。ただし、幅は決めます。ここが曖昧だと、判断が日によってぶれます。
色の合否は、標準サンプルを一本置いて決める
色の判断を言葉でやるのは無理です。「濃すぎる」「薄すぎる」は人によって違い、同じ人でも朝と夕方で違います。だから量産の現場と同じ方法を使います。標準サンプルを一本作って、手元に置いておく。その一本より明らかに濃い、あるいは明らかに薄いものを落とす。比較対象が物としてそこにあれば、判断は驚くほど安定します。
サンプルは光の当たる場所に置きません。標準そのものが褪せてしまうからです。引き出しの中に、布に包んで入れてあります。
S10 サンダルウッドボールエクステンション(茶)(¥7,800)は、素材がアルミニウム合金とサンダルウッド(白檀)、色は茶(赤み)、全長130mm(フル装着時)/90mm(上部パーツ単体)、重さ130g。商品名にある「茶(赤み)」という色名は、標準サンプルが持っている赤みのことです。届いた個体がサンプルよりわずかに赤いことも、わずかに落ち着いていることもあります。それは幅の中です。社外パーツの公差と現物合わせの記事でも書きましたが、幅がゼロの物づくりは存在しません。
落とすものの基準を、先に決めておく理由
検査で最も危ないのは、合格の基準ではなく不合格の基準を後から決めることです。目の前に一本しかない製品を見ながら「これは出せるか」と考え始めると、判断は必ず甘くなります。出荷したい気持ちが混ざるからです。
だから、落とすものは先に文章にしておきます。私たちが落とす条件は、おおむね次の性格を持つものです。
- 手が触れる面にある傷。見えても触れない場所より、触れる場所を優先します。握って気づくものは、写真で気づかなくても落とします。
- ネジに関わる不具合。入り始めの引っかかり、途中の重さ、戻しの渋さ。ここは幅を持たせません。付かない製品には価値がないからです。
- 標準サンプルから明らかに外れた色。並べて迷う程度なら通し、並べずに違うと分かるものは落とします。
- 組み合わせたときのガタ。単体では問題なくても、組んで動くものは落とします。
逆に、落とさないものも書いておきます。木目の違い、天然素材の色の濃淡、アルマイトのロットによるわずかな発色差、握ったときに指が触れない内側の加工痕。これらは幅の中です。S01 タートルネックボール(¥5,800)のようなアルミ単体の製品でも、発色に幅はあります。素材はアルミニウム合金、色はチタニウムブルー、重さは120g。同じ色名で二本並べたときにだけ分かる差は、不良ではありません。
落としたものはどうするのか、という質問もいただきます。傷が浅く、機能に関わらないものは、状態を明記したうえで割引の枠で出すことがあります。どの部位の傷なら出せるのか、値段の下げ幅を何で決めているのかは、「傷あり」で安く出ている部品は、どこまで許容できるかに続きを書きました。ネジに関わるものは出しません。木の割れや欠けがあるものも出しません。直せるものは直し、直せないものは出さない——分け方はこれだけです。小ロットなので、落とした一本の重みは量産よりずっと大きい。それでも出さないと決めているのは、一本の判断が次の一本の基準を作ってしまうからです。
この「落とす/落とさない」の線引きを公開しておくのは、私たちの都合でもあります。線が書かれていないと、どんな問い合わせにもその場で答えを作ることになり、人によって違う答えが出てしまう。書いてあれば、こちらもそこに戻れます。他の製品の作り方についてはシフトノブの一覧と、1本のシフトノブができるまでもご覧ください。
それでも見逃しは出ます。届いてから気づいたときのこと
正直に書きます。人が見ている以上、見逃しはゼロになりません。全数を人の指と目で見ていても、疲れは出るし、同じ形を何十本も続けて見ると感度は落ちます。私たちは休憩を挟んだり、見る順番を入れ替えたりしていますが、それで消える種類の問題ではありません。
だから、届いてから気づいたときの動き方を先に書いておきます。
- 取り付ける前に、明るいところで一度見てください。取り付けてからだと、輸送中のものか作業中のものか、こちらにも分からなくなります。
- 気になる箇所の写真を撮ってください。斜めから光を当てた写真が、いちばん伝わります。真正面のフラッシュ撮影は、傷が消えて写ります。
- 何が気になるかを一言添えてください。「握ると左手の親指の付け根に引っかかる」のように、動作で書いていただけると、こちらは同じ動作で確かめられます。
「当たり外れ」という言葉の中身は、たいていこの二つのどちらかです。ひとつは私たちの見逃し。もうひとつは、幅の中の個体差を不良と受け取られたケース。前者は私たちの責任なので対応します。後者は、この記事のような説明が足りていなかったという意味で、やはり私たちの側の課題です。どちらにしても、黙って我慢していただく必要はありません。
まとめ
出荷前に見ているのは、次の順序です。
- 買った人の手の動き(つまむ・握る・覗く・回す・付ける)から逆算して検査項目を作る
- 目は光の当て方で見る(斜めの低い角度)、指はゆっくり軽く滑らせる。両方やる
- ネジは「入るか」ではなく、まっすぐ入り、最後まで軽く、戻しも軽いかで見る
- 加工は揃える、天然素材は揃えない。ただし幅は決める
- 色は言葉でなく標準サンプルとの比較で決める
- 不合格の基準を先に文章にしておき、製品を見ながら決めない
- 届いたら取り付ける前に明るいところで確認し、気になれば斜め光の写真を添えて連絡する
検査は、値段にもカタログにも載らない工程です。それでも、握った瞬間の印象はほとんどここで決まっています。地味な話にお付き合いいただきありがとうございました。
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