油温が上がってタレる|オイルクーラーを入れる前に確認したいこと

走行会の午前枠、3本目のことでした。1周目と2周目はいい感じで、自分でも珍しくまとまった走りができている。ところが3周目に入ったあたりから、同じところで同じように踏んでいるのに、立ち上がりの伸びが妙におとなしい。気のせいだと思って4周目も同じように走り、ピットに戻ってタイムを見たら、はっきり落ちていました。タイヤのせいか、自分の集中力か、それともブレーキか。原因の候補が多すぎて、結局その日は分からずじまいでした。
あとから振り返ると、いちばん怪しかったのはエンジンオイルの温度でした。けれどその日の車には油温計が付いていませんでした。つまり、いちばん怪しい容疑者だけ、アリバイも証言も取れていなかったということです。オイルクーラーを検討し始める方の多くが、実はこの状態にいます。「たぶん油温だと思うのですが」という相談を受けるたびに、まず伺うのは「今、何度まで上がっていますか」です。
この記事では、オイルクーラーを買う前に踏んでおきたい順番を整理します。なぜ計測が先なのか。冷やしすぎがなぜ問題になるのか。段数(列数)と置き場所で冷え方がどう変わるのか。配管の取り回しで何に気をつけるのか。そして、クーラーを入れる前に見直せる場所は残っていないか。買わせないための記事ではありませんが、買ってから「効いているのかどうか分からない」となるのを防ぐための記事です。
まず測る——油温計がない状態では、判断できない
量産車の開発で、私たちが絶対にやらないことがあります。それは計測しないまま対策を打つことです。不具合の報告が上がってきたとき、まずやるのはセンサーを付けて数字を取ることで、部品を作り始めるのはそのあとです。理由は単純で、数字がなければ「効いたかどうか」も分からないからです。対策後に良くなった気がする、では報告になりません。
オイルクーラーはまさにこの原則が当てはまる部品です。付ける前の油温が分からなければ、付けたあとの油温が良い数字なのかどうかも判断できません。もっと言えば、そもそも油温が問題だったのかどうかすら確かめられていない。3周目からタレる原因は、油温以外にもタイヤの表面温度、ブレーキ、水温、燃料の温度、そして人間の集中力と、いくらでも候補があります。
だから順番としては、油温計を先に付けます。そして自分の車の平常値を知ることから始めてください。通勤で走ったときにどのあたりで落ち着くのか。夏の渋滞ではどこまで上がるのか。走行会の1周目、3周目、5周目でどう推移するのか。この推移の形が見えると、話が一気に具体的になります。ずっと高いままなのか、周回を重ねるごとに階段状に上がっていくのか、クールダウンで戻るのか。形が分かれば、打つべき手も変わります。
メーターを置く台としては、当店のP07/P08 シングル メータースタンド(53mm/60mm)(¥4,800)があります。3mm厚のCNC加工ドライカーボン製で、53mmまたは60mmの社外メーターに対応し、表面には紫外線に耐える特殊コーティングを施しています。まず1個だけ、いちばん知りたい値を置く。この考え方が現実的である理由は、視線移動と映り込みの話とあわせて追加メーターはどこに置くべきかに書きました。取り付ける前に、メーターの取付穴が53mm系か60mm系かを必ず確認してください。
冷やしすぎもまた問題、という当たり前の前提
「オイルは冷えているほど良い」というのは、半分だけ正しい話です。エンジンオイルには、そのオイルが本来の粘度と性能を発揮する温度域があります。低すぎると粘度が上がって流れにくくなり、内部の抵抗が増えます。さらに厄介なのは、燃焼で生じた水分や燃料の一部がオイルに混ざったとき、温度が十分に上がらないと、それらが飛ばずに残るという点です。乳白色に濁ったオイルを見たことがある方は、あの状態を思い出してください。
つまりオイルの温度管理は、上限を抑えるだけの片側の仕事ではなく、適正な幅の中に収める両側の仕事です。冷却能力を上げるということは、上限を下げると同時に、下限も引き下げてしまうということでもあります。「大きければ大きいほど安心」という発想が通用しない理由がここにあります。
冬場とストリートでの運用をどうするか
サーキットの真夏に合わせた冷却能力は、冬の街乗りには過剰になりがちです。対処の方向はいくつかあります。ひとつはコアの前面を部分的に塞いで風の当たる面積を減らすこと。もうひとつは、油温が上がるまでクーラーへオイルを回さない仕組み——サーモスタット付きのアダプターを使うことです。どちらを選ぶにしても、季節ごとに油温がどこで落ち着くかを、メーターで見ながら決めるのが確実です。ここでも、判断材料は数字です。
もうひとつ、走り方による違いも押さえておいてください。ストリートの街乗りは、そもそも油温が上がりきらない場面のほうが多い使い方です。渋滞で水温が上がることはあっても、油温がオイルの適正域を超えて張りつくのは、高回転を継続的に使ったときが中心になります。自分の使い方が本当に冷却不足なのかどうかを、季節をひととおり通してから判断しても遅くはありません。
段数(列数)の考え方と、置き場所で決まる冷え方
オイルクーラーのカタログには、必ず段数(列数)が書かれています。コアを構成する管の列が何段あるかという数字で、大きいほど熱を捨てる面積が広くなります。ただし、実際に冷えるかどうかを決めるのは、面積と同じくらい風です。
コアは、通り抜ける空気に熱を渡す部品です。だからいくら大きなコアを積んでも、そこに空気が流れていなければ仕事をしません。逆に、そこそこの大きさでも、走行風がまっすぐ入って、抜けた空気がきちんと逃げていく場所に置けば、素直に効きます。「入る風」と「抜ける道」の両方が要る、という点だけは外さないでください。バンパーの奥にきれいに収めたのに、抜けた空気の行き場がなくて溜まってしまう、というのは実際によくある失敗です。
| 見るところ | 確認すること | 外したときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| コアの前 | 走行風がまっすぐ当たるか。他の熱交換器と重なっていないか | ラジエター越しの温かい風を当ててしまう |
| コアの後ろ | 抜けた空気が逃げる道があるか | 空気が溜まり、風が通らなくなる |
| 高さと張り出し | 路面の突起や縁石に当たらないか | 下側に付けて、走行会で破損する |
| 他の部品との関係 | ラジエターやエアコンのコンデンサーの前を塞いでいないか | 油温は下がったが水温が上がる |
最後の行は特に大事です。前から見て重ねて並べると、後ろ側の熱交換器は前を通り抜けて温まった空気を受け取ることになります。油温を下げようとして水温を上げてしまっては、対策として成立しません。ここでも、油温計と水温計の両方を見ながら判断できる状態にしておく意味が出てきます。
当店のP01 10列式オイルクーラーキット(¥28,000)は、10列のコアを持つキットです。本体側のホースとフィッティングにはAN10サイズを採用し、車両側アダプターはM20×1.5 および 3/4-16 UNF の2種類が付属します。国産車・輸入車を問わず幅広い車両に対応できる構成ですが、取り付け前にご自身の車のオイルフィルター取付部のねじが、この2種類のどちらかに当てはまるかを必ず確認してください。ここは車種と年式で異なる部分です。
配管の取り回しで気をつけること
オイルクーラーの取り付けで、いちばん静かに危ないのが配管です。中を流れているのは高い圧力のかかった熱いオイルで、外れれば一気に噴き出します。自分の車が止まるだけでは済まず、後続の路面を汚すことにもなります。ここは「動くもの」と「動かないもの」を結ぶ配管である、という意識を最初に持ってください。
エンジンはゴムのマウントに載っていて、走っているあいだ常に動いています。一方、コアは車体側に固定されます。つまりホースは、その相対的な動きを吸収し続ける役目を負います。だから見るべき点は決まってきます。
- 長さに余裕を持たせる。ぴんと張った状態では、エンジンが動いた瞬間に引っ張られます
- 余りすぎもいけない。だぶついたホースは振動で暴れ、どこかに擦れます
- 擦れる相手を作らない。ボディの縁、ブラケットの角、他のホース。触れる場所には保護を入れる
- 熱源から離す。排気管の近くを通す場合は遮熱を挟む
- 曲げすぎない。急な曲がりは流れの抵抗になり、ホースの寿命も縮める
そして取り付け後は、必ずエンジンをかけて油圧をかけた状態で、にじみがないかを目視で確認してください。冷えた状態で締めたつなぎ目は、温まって膨張したときに緩むことがあります。走り出す前に一度、そして走ったあとにもう一度。この二回の確認を習慣にするだけで、トラブルの多くは事前に見つかります。自信が持てない場合は、迷わず整備工場に依頼してください。オイル配管は、失敗したときの損害が大きい部類の作業です。
入れる前に見直せる場所——オイルそのものと、走り方
クーラーは「捨てる熱の量を増やす」対策です。その前に、入ってくる熱を減らす、あるいは今のオイルで足りているかを疑うという段階が残っていることは少なくありません。
ひとつめは、オイルそのものの見直しです。銘柄と粘度が今の走り方に合っているか。交換してから何回サーキットを走ったか。オイルは熱を運ぶ媒体でもあるので、劣化した状態のまま高い負荷をかけ続けると、温度以前の問題が出てきます。走行会を挟んだら、走行距離が短くても交換の間隔を詰める。これはクーラーを入れたあとも変わらない基本です。
ふたつめは、走り方と休ませ方です。連続周回の本数を1本減らす、あるいはチェッカー後にゆっくり1周してから戻る。クールダウンの周回は、油温と水温だけでなくブレーキにとっても意味があります。温度が上がりきる前に区切るという運用でしのげるなら、それはそれで正しい対策です。
みっつめが、エンジンの状態を観察する仕組みを増やしておくことです。P03 オイルキャッチタンク 350ml(¥4,800)は、ブローバイガスが吸気に戻る前にオイルと水分を分離して受け止める部品ですが、溜まった量と状態を定期的に見ることで、エンジンの調子を早めに察知できるという使い方もできます。高回転を多用する走行では、ブローバイと一緒に出ていくオイルの量も増えます。詳しくはエンジンルームのオイルミストとキャッチタンクにまとめました。パフォーマンス系の製品はパフォーマンス一覧からご覧いただけます。
よくある質問
油温計を付けたら、まず何を見ればいいですか?
最高値ではなく、推移の形を見てください。走り出してどのくらいで平常域に入るか。周回を重ねるとどう上がるか。ピットに戻って何分で戻るか。これを何回か記録すると、自分の車の癖が見えてきます。数字を一度だけ見て判断するより、同じコースで何度か取ったほうが、はるかに使える情報になります。
段数は多いほうがいいのでしょうか?
冷却能力という一点だけを見れば、面積は大きいほど有利です。ただし実際には、置き場所に収まるか、風が通るか、冬に冷えすぎないか、重量とホースの長さが増えることをどう見るか、という制約が同時にかかります。置ける場所と風の通り道を先に決め、そこに収まる範囲で選ぶのが現実的な順番です。
取り付けは自分でできますか?
作業そのものの難易度と、失敗したときの結果は別で考えてください。オイルの配管は、外れれば走行中にオイルを失う可能性がある部位です。工具と経験、そして締め付けの管理に自信がある方以外は、整備工場に依頼することをおすすめします。少なくとも、取り付け後に第三者の目で一度確認してもらうことは強くおすすめします。
油温が下がれば、タイムは上がりますか?
そう単純ではありません。油温が原因でタレていたなら改善が期待できますが、原因がタイヤやブレーキ、あるいはドライバー側にあったなら変わりません。だからこそ、先に測るのです。測ってから対策を打てば、効いたかどうかも同じものさしで確認できます。走行会全体の装備の揃え方は走行会デビュー装備ガイドにまとめています。
まとめ:順番は、測る→見直す→冷やす
オイルクーラーは効く部品です。ただし、効いたかどうかを確かめられる状態で入れないと、高い買い物が「たぶん良くなったと思う」で終わってしまいます。量産の開発で計測を先に置くのは、慎重だからではなく、そのほうが結果的に早いからです。
- 油温計を付け、通勤・夏の渋滞・走行会で平常値と推移の形を記録する
- その形を見て、ずっと高いのか、周回とともに階段状に上がるのかを判断する
- オイルの銘柄・粘度・交換からの走行回数を見直す。走行会を挟んだら間隔を詰める
- クーラーを置ける場所を実車で探す。風が入る面と、抜ける道の両方があるかを見る
- ラジエターやエアコンのコンデンサーの前を塞がないか確認する。水温も同時に見られるようにしておく
- 車両側のねじが M20×1.5 か 3/4-16 UNF のどちらに当てはまるかを確認してから注文する
- 配管は余裕を持たせ、擦れる場所と熱源を避ける。取り付け後は油圧をかけてにじみを確認する
- 冬場に冷えすぎないか、季節をひととおり通してメーターで確認する
測る、見直す、冷やす。この順番を守れば、クーラーを入れなくても解決してしまう場合もあれば、入れたときに「確かに効いた」と数字で言える場合もあります。どちらに転んでも、無駄にはなりません。
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