遠出の前夜、10分でエンジンルームを見る|社外部品を付けた車で出かける前に

出発は朝5時と決めました。高速が混む前に県境を越えたい。荷物は前の晩のうちに積んで、あとは寝るだけ——というところで、ふと落ち着かなくなる。半年前に付けたオイルクーラーのホースを、そういえば最近ちゃんと見ていない。ボンネットを開けたのは、いつが最後だったろうか。
この落ち着かなさは、実のところ正しい感覚です。部品を足した車は、見るべき場所が純正の状態より増えているからです。増えたぶんを誰も見ていなければ、そこは点検されていない場所になります。ディーラーの定期点検でも、社外部品まで細かく見てもらえるとは限りません。だとすれば、増やした本人が見るのがいちばん自然です。しかも、そんなに時間はかかりません。
この記事では、遠出の前夜に10分でエンジンルームを一周する順路を作ります。サーキット走行前の本格的な点検ではなく、家族旅行や帰省の前に、懐中電灯ひとつでやる範囲の話です。順路の中身、目ではなく指で確かめる場所、危ないサインの見分け方、出先のために積んでおくと安心なもの、そして帰ってきた翌日にもう一度同じ順路を回る理由まで、順に見ていきます。
純正だけの車と、部品を足した車で、見る場所の数が違う
量産車の開発では、点検のしやすさも設計項目のひとつです。オイルのレベルゲージが手前にあるのも、リザーバータンクが半透明で外から液面が見えるのも、偶然ではありません。整備する人が短時間で確認できるように、位置と見え方が決められています。
ところが社外部品を追加すると、この前提が少しずつ崩れます。新しいホースが増え、新しい継ぎ目が増え、新しい留め具が増える。どれも設計上は問題のない部品でも、「継ぎ目の数」だけは確実に増えているのです。そして継ぎ目は、機械のなかでいちばん動きやすい場所です。
だからといって不安がる必要はありません。増えた場所を知っていれば、そこを見ればいいだけです。むしろ、自分で付けた部品は自分がいちばんよく分かっているはずですから、条件としては悪くありません。「純正の点検+自分が足したぶん」という足し算で考える。これが出発点になります。
足したものを一度、頭のなかで数えてみてください。オイルクーラー、キャッチタンク、リザーバータンク、吸気系、冷却系。三つや四つなら、順路に組み込むのは難しくありません。
もうひとつ、意外に効く視点があります。部品を足した直後の数百キロと、その後の数千キロでは、起きることの種類が違います。取り付けたばかりの時期に出るのは、締結のなじみによるゆるみや、ホースの取り回しの当たりです。しばらく経ってから出るのは、熱と振動を受け続けたことによる材料側の変化です。ですから、付けてまだ日が浅い部品と、何シーズンも使っている部品とでは、見るポイントも変わります。前者は「動いていないか」、後者は「変質していないか」。この二つを頭の隅に置いておくだけで、10分の使い方が変わります。
10分の順路——ホースの根元から、床まで
順番を決めておくことには意味があります。決まった順路があれば、疲れていても、暗くても、抜けが出にくい。毎回同じ順で回っていると、違いのほうが目に飛び込んでくるようになります。
作業は必ずエンジンが冷えた状態で行ってください。走行直後のエンジンルームは高温で、冷却系は圧力がかかっています。前夜、寝る前に開けるという設定にしているのは、まさにそのためです。ラジエーターキャップやリザーバータンクのキャップは、熱いうちに開けないでください。
| 順番 | 見る場所 | 何を確かめるか |
|---|---|---|
| 1 | ホースの根元 | 継ぎ目のにじみ、ホースの表面のひび、当たって擦れている跡 |
| 2 | 留め具・ステー・ボルト | ゆるみ、ずれ、ステーの割れ、ワッシャーの浮き |
| 3 | 液面 | エンジンオイル、冷却水、ブレーキ液。前回との差 |
| 4 | 溜まったもの | キャッチタンクの中身の量と色 |
| 5 | 床 | 停めていた場所の地面に、染みが増えていないか |
ホースの根元を最初にするのは、そこがいちばん動く場所だからです。振動も熱も、まずここに集まります。にじみは「濡れている」とは限りません。油が滲んだところに埃が付いて、黒く汚れた輪になっていることのほうが多いので、艶よりも汚れの形を見てください。
床を最後にするのは、エンジンルームで見つけられなかったものが、地面に落ちていることがあるからです。染みの位置は、漏れている場所のおおよその真下です。前と比べて増えているかどうかが分かるように、駐車位置をなるべく変えないでおくと判定が楽になります。
時間配分の目安も書いておきます。1から5まで、それぞれ2分ずつと考えてください。ひとつの場所に2分もかけると長く感じますが、実際にやってみると、懐中電灯の向きを変えながら覗き込むだけで、あっという間に過ぎます。むしろ大事なのは、途中で気になるものを見つけたときに、その場で直そうとしないことです。直し始めると順路が止まり、残りを見ないまま夜が更けます。見つけたものは写真を撮って、順路を最後まで回してから、あらためて優先順位を付ける。工場の点検でも、記録を取る工程と処置を決める工程は分けます。同じ理由です。
目で見るのではなく、指で触って確かめる場所
懐中電灯だけでは分からないものがあります。ここは指を使ってください。手袋をして、エンジンが冷えていることを確認してからです。
ひとつめはホースの根元をつまむこと。硬くなってしなやかさを失っていないか、逆に妙に柔らかくなっていないか。ゴムは熱と時間で性質が変わりますが、色ではほとんど分かりません。指のほうが早く気づきます。
ふたつめは継ぎ目を軽くなでること。指の腹に油の膜が付くかどうかを見ます。付いた油の色も情報です。透明に近ければ新しい漏れ、黒く粘るなら古くから少しずつ出ているものです。
みっつめはステーを軽く揺すってみること。手で動く程度のがたつきがあれば、そこは走行中もっと動いています。ボルトの増し締めが必要かもしれませんが、締め付けは指定された値の範囲で行ってください。感覚で強く締めると、ねじ山を痛めたりステーを割ったりします。判断に迷うときは、無理に締めずに整備工場へ相談するほうが確実です。
当店のP03 オイルキャッチタンク 350ml(¥4,800)は精密加工されたビレットアルミニウム製で、アダプターサイズは12mm。ブローバイガス(エンジン内部から漏れてくるガス)に含まれる油分と水分を捕まえ、吸気側の部品が汚れるのを防ぐ部品です。前夜の点検では、この中身を必ず見てください。溜まったものの量と色が、エンジンの調子をいちばん素直に教えてくれます。抜き方と頻度についてはキャッチタンクの抜き方と頻度にまとめてあります。
「前回いつ見たか」を思い出せないものが、いちばん怪しい
点検で本当に危ないのは、明らかに壊れている部品ではありません。壊れていれば気づきます。危ないのは、「たぶん大丈夫だと思っている」場所です。
設計の現場では、これを見つけるために単純な質問をします。「最後にそれを確認したのはいつですか」。答えられなければ、その項目は未確認として扱う。記憶が曖昧なものを「大丈夫」に分類しない、という決まりです。
同じ質問を、自分の車に向けてみてください。オイルクーラーのフィッティングを最後に見たのはいつか。冷却水の液面を最後に見たのはいつか。思い出せない項目があったら、そこを今夜の重点にします。全部を丁寧に見る時間はなくても、思い出せない場所だけなら見られるはずです。
冷却水については、リザーバータンクの液面をFULLとLOWの範囲で確認します。P06 クーラントタンク(¥6,800)のような社外のタンクに交換している場合は、純正と形も容量も違うことを頭に入れておいてください。この製品は容量800ml、ジョイントサイズ10mmで、内部にアノダイズ処理、外部はウレタン塗装で仕上げてあります。減っているなら、減った理由があります。継ぎ足して出発するのではなく、どこから減ったのかを先に探してください。液面の見方については長距離ツーリングで効く部品の優先順位でも触れています。
出先で気づいたときのために、積んでおくと安心なもの
前夜に点検しても、旅先で何かが起きる可能性はゼロにはなりません。備えは「直せる道具」ではなく、「気づける道具」と「悪化させない道具」で考えると現実的です。
- 懐中電灯(ヘッドライト型だと両手が空きます)。サービスエリアの照明では、エンジンルームの奥は見えません
- 使い捨ての手袋とウエス。拭き取って、翌朝もう一度見ると、漏れが続いているかどうかが分かります
- 補充用の冷却水とエンジンオイル、少量。継ぎ足しは応急処置であって修理ではない、という前提で
- スマートフォンで撮った、出発前のエンジンルームの写真。比べる相手があると、判断がとても早くなります
最後の項目は、道具ではありませんが、いちばん効きます。出発前に、順路の5か所を撮っておく。それだけで、出先で「これは前からこうだったか」を確かめられます。記憶で比べようとすると、たいてい迷います。
そして、走行中に異音・異臭・警告灯・水温上昇のいずれかを感じたら、その場で判断しようとせず、安全な場所に停めてください。エンジンルームの点検は、必ず停車して冷えてからです。自分で原因が特定できないときは、無理に走り続けず、ロードサービスや整備工場に相談してください。
出発前に、加入しているロードサービスの連絡先と、旅先の経路上にある整備工場を一つか二つ、スマートフォンに控えておくこともお勧めします。休日や夜間は営業していないことも多いので、「困ってから調べる」と選択肢がほとんど残りません。これは部品の点検とは別の話に聞こえますが、社外部品を入れた車ほど、受け入れてもらえる工場を事前に把握しておく価値があります。持ち込みの相談ができる店を知っているかどうかで、旅先の判断がずいぶん楽になります。
帰ってきた翌日に、もう一度同じ順路を回る
ここがいちばん見落とされる工程です。長距離を走った直後の車には、普段は出ない情報が出ています。いつもは街乗りしかしない車が、何時間も高い水温と油温にさらされたあとの状態。この差分が読めるのは、帰ってきた直後だけです。
翌日、冷えた状態で同じ順路を回ります。にじみが増えていないか。留め具が動いていないか。キャッチタンクの中身は、出発前と比べてどれくらい増えたか。同じ順路を回っているからこそ、差が分かります。これが、順番を決めておくことの本当の理由です。
油温を管理する部品を入れている方は、この機会に効き具合も確認しておくとよいと思います。当店のP01 10列式オイルクーラーキット(¥28,000)は、本体側のホースとフィッティングにAN10サイズを採用し、車両側アダプターはM20×1.5と3/4-16 UNFの2種類が付属します。長距離で高い油温が続いたあとに、フィッティングの締結部と、コアの前面に付いた虫や小石を見る。コア前面が詰まると、放熱に使える面積が減ります。一シーズン使ったあとの見方はオイルクーラーを一年使ったあとに見るところに詳しく書きました。冷却系の製品はパフォーマンス一覧にまとめています。
まとめ:前夜10分の順路
点検を習慣にできる人とできない人の差は、几帳面さではなく、順路を決めているかどうかです。決めてしまえば、考えることがなくなります。
- エンジンが冷えた状態で開ける。熱いうちにキャップ類を開けない
- ホースの根元 → 留め具 → 液面 → 溜まったもの → 床。この順で毎回回る
- にじみは艶ではなく、油に埃が付いた黒い輪の形で探す
- ホースの根元は指でつまむ。硬さの変化は色では分からない
- 「前回いつ見たか」を答えられない場所を、今夜の重点にする
- 液面が減っていたら、継ぎ足す前に減った理由を探す
- 出発前に順路の5か所を写真に撮っておく。出先での比較が早くなる
- 増し締めは指定された値の範囲で。迷ったら締めずに整備工場へ相談する
- 帰ってきた翌日、冷えてからもう一度同じ順路を回る
10分は、荷物を積み直す時間より短いはずです。懐中電灯をひとつ、玄関に置いておく。それだけで習慣になります。
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