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走行会デビュー装備ガイド|初心者が揃える順番と素手がダメな理由

2025年10月7日 / 約8分

フルフェイスのレーシングヘルメット P18

6月の本庄サーキット、朝8時。ドライバーズブリーフィングから戻ると、隣のピットに停めたZC33Sスイフトスポーツの若いオーナーが、受付のスタッフに呼び止められていました。Tシャツに素手、ヘルメットは友人に借りたという二輪用。「軍手じゃだめですか」という声が聞こえて、笑えませんでした。二十数年前、初めて走行会に申し込んだころの私と、ほとんど同じ格好だったからです。

私は長いこと量産メーカーのスタジオで内装デザインをやってきました。ステアリング表皮の色をカラーマスターと突き合わせて詰め、クレイモデルを深夜まで削る側の人間です。その目から見ると、走行会の装備は「雰囲気を出すギア」ではなく、操作系の一部です。初心者がどの順番で装備を揃えるべきか、なぜその順番なのか。設計側の理屈から書いてみます。

素手のステアリングは、思っているより滑る

まず「なぜ素手はだめか」から。量産車のステアリング表皮は、シボの深さも表面処理も、日常の発汗量と素手を前提に仕様が決まっています。通勤で握るぶんには、あれで正しくグリップする。ただしサーキットの連続周回は、その設計想定の外側です。20分枠を1本走れば手のひらは濡れたままになり、革の表面に薄い水の膜ができます。摩擦はここで目に見えて落ちる。ウェット路面のタイヤと同じ理屈です。

厄介なのは、滑るのが「いちばん滑ってほしくない瞬間」だという点です。リアが流れてカウンターを当てる、縁石に乗ってキックバックが返ってくる。そこで手のひらが数センチ滑れば、修正舵はワンテンポ遅れます。サーキットのワンテンポは車一台分です。なお軍手は解決になりません。編み目が粗くて逆に滑るうえ、化繊混紡は摩擦熱に弱い。革のドライビンググローブが何十年も走りの現場の定番であり続けるのは、ファッションの話ではなく摩擦の話です。

最初の一個はヘルメット。順番には理由がある

装備を揃える順番は、ヘルメット→グローブ→装具(ハーネスなど)。これは予算の大きい順ではなく、「代替がきかない順」です。グローブを忘れても受付でなんとかなる場合はありますが、ヘルメットなしで走れる走行会はまずありません。そしてレンタルヘルメットは、サイズが合わない・前の人の汗を吸っている・そもそも数が足りない、の三重苦です。

順番 装備 多くの走行会での扱い JAF公式競技での扱い
1 ヘルメット ほぼ必須(規格は主催者規定による) FIA・JISなど指定規格が求められるのが通例
2 グローブ 着用必須が多数派。フルフィンガー指定も多い FIA 8856規格の公認品が求められるのが通例
3 長袖・長ズボン 必須が多数派(綿など燃えにくい素材推奨) 公認レーシングスーツ
4 ハーネス・HANS 任意(ペースが上がってから) クラス規定により必須

量産開発では、原価企画との折衝で内装の革や加飾が順番に削られていくのが常ですが、衝突安全に関わる部品だけは聖域です。個人の装備も同じ考え方でよくて、頭部保護は削らない。当店のP18 レーシングヘルメット(48,000円)は、クラシックなホワイトのフルフェイスで、DOT認証を取得しています。ここは正直に書きますが、DOTは米国運輸省系の安全規格で、四輪の公式競技で求められるFIA規格とは別系統のものです。走行会はイベントごとにヘルメット規定が異なるため、募集要項の確認だけは必ずしてください。

Plus Alpha Designs P18 フルフェイスレーシングヘルメット ホワイト

もうひとつ、設計側から言っておきたいのは中古ヘルメットの話です。シェルの内側の発泡ライナーは金型で成形された使い切りの部品で、一度大きな衝撃を吸収すると潰れて役目を終えます。外観がきれいでも中身の状態は判断できません。落としたヘルメットと出どころ不明の中古品は、走行会デビューの節約対象から外してください。

「FIA公認」の意味と、当店グローブの正直な立ち位置

装備を調べ始めるとすぐ目に入る「FIA公認」。あれは国際自動車連盟が定めた規格試験を通過した証明で、グローブやスーツならFIA 8856-2018、ヘルメットならFIA 8859-2015といった規格が該当します。試験の柱は難燃性。つまり公認装備の本質は「速く走る道具」ではなく、「車両火災のとき、脱出までの時間を稼ぐ道具」です。JAF公式競技のレギュレーションで公認品が要求されるのは、この耐火性能が理由です。

そのうえで正直な話をします。Plus Alpha Designsのグローブは、FIA公認品ではありません。シープスキンや鹿革を使った本革のドライビンググローブで、主眼は操作感とグリップ。競技の外側、つまり走行会・ツーリング・街乗りまでを守備範囲にした道具です。公式競技に出るなら公認レーシンググローブを買ってください。ここをぼかして売るつもりはありません。

走行会デビューには、G16 レーシンググローブ ロング ブラック(7,800円)のようなフルフィンガーのロングタイプを勧めます。シープスキンで指先まで覆われ、手首までカバーが伸びるため、多くの走行会が求める「肌の露出を避ける」という趣旨に沿います。ハーフフィンガーのG01(5,800円)は操作感が気持ちいい一方、あちらは街とツーリングの道具。指の露出をどう扱うかは主催者次第なので、迷ったらロングです。

G16 レーシンググローブ ロング ブラック 本革フルフィンガー

三つ目は「体を留める」装具

ヘルメットとグローブが揃えば、初回の走行会は純正シート・純正3点ベルトで問題なく走れます。装具はペースが上がってからでいい。ただ、なぜ走行会の常連がみなハーネスに行き着くのかは、先に知っておいて損がありません。答えは慣性です。フルブレーキングの間、車は減速しても体は同じ速度で前に進み続けようとする。純正3点ベルトだけだと、ドライバーは無意識に腕とヒザでそれを支えます。ステアリングは体を支える棒ではなく操舵の入力装置なので、そこに体重が乗った瞬間、舵の精度は落ちます。GR86やNDロードスターのようにブレーキの効く車ほど、この差は早く体感します。

体をシートに留めれば、腕は操舵に専念できる。当店の5点式レーシングハーネス(25,000円)と6点式レーシングハーネス(28,000円)は難燃材料製で、ショルダー150cm・ウエスト3インチ幅、HANSデバイスにも対応します。ひとつだけ約束してほしいのは、純正シートベルトを外さないこと。ハーネスはあくまで競技用装備で、公道や車検での扱いは車両の構造や検査時の判断によって変わり得ます。純正ベルトを残したまま追加装着し、公道では純正側を使うのが定石です。

5点式レーシングハーネス レッド HANS対応

前日の夜に見るチェックリスト

最後に、装備そのもの以外で初回に忘れがちなものを。前日の夜にガレージで揃えておくと、当日の朝が静かになります。

ちなみに主催者によっては、オイル吹き対策としてオイルキャッチタンクの装着を推奨・指定していることがあります。高回転を続けるとブローバイガスと一緒にオイルが吸気側へ回るためで、これも募集要項に書いてある類の話です。エントリー前に、要項は最後まで読んでください。

よくある質問

ハーフフィンガーのグローブで走行会に出られますか?

主催者の規定次第ですが、指先まで覆うフルフィンガー指定の走行会が多数派です。当店のハーフフィンガーは街乗り・ツーリング向けと割り切り、走行会にはロングタイプのフルフィンガーをお勧めします。

ヘルメットは二輪用でもいいですか?

走行会レベルでは二輪用フルフェイスを認める主催者も多くありますが、規定はイベントごとに異なります。募集要項のヘルメット規定を必ず確認してください。JAF公式競技では、FIAやJISなど指定規格のヘルメットが求められるのが通例です。

ハーネスを付けたら車検はどうなりますか?

純正シートベルトを残したまま追加装着するのが定石です。車検時の扱いは車両の構造や検査の判断によって変わり得るため、ここでの断定は避けます。純正ベルトは外さず、公道走行では必ず純正側を使用してください。

装備の箱がガレージの棚にひとつ増えると、走行会は「イベント」から「習慣」に変わります。そうなると次に気になり始めるのは、手のひらから入ってくるステアリングの情報量です。まずは手囲い(親指を除く手のひらの一番広い部分の周囲)を測ってから、ロングのG16か、ブラウンが好みならG14 レーシンググローブ ロング ブラウン(8,800円)で、自分の手に合う一双を探してみてください。

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