ステアリングを替えたらメーターが隠れた|チルトとテレスコを取り直す順番

取り付けが終わって、センターを出して、ボルトも締めた。満足して運転席に座り、いつもの姿勢を作る。エンジンをかけて、ふとメーターに目をやると——タコメーターの上半分が、リムの陰に入って見えません。角度を変えれば見えるのですが、そうすると今度は握りの位置がしっくりこない。座り直すたびに、どちらかが必ず犠牲になる。
ステアリングを替えたあとに起きる違和感のうち、いちばん厄介なのがこれです。取り付けそのものは正しく終わっているので、どこも直しようがない。にもかかわらず、走り出すたびに気になる。しかもチルトとテレスコピックをその場で動かしても、なかなか決まらない。動かすほど分からなくなっていく、という経験をされた方は少なくないはずです。
この記事では、径が変わると視界の何が動くのかを整理したうえで、ポジションを取り直す順番をお話しします。結論から言えば、シートが先、ハンドルが後です。この順番を守るだけで、迷路のようだった調整が一度で決まります。最後に、それでも隠れる場合に疑うべき点と、追加メーターを付ける前にやっておくべきことも書きます。
径が変わると、視線とリムの交点が動く
まず、何が起きているのかを整理します。メーターが見えるかどうかは、目とメーターを結んだ直線が、リムに遮られるかどうかで決まります。それだけです。
純正ステアリングは、その車の標準的な着座位置から、この直線が遮られないように設計されています。私たちが量産開発でやっていた作業のひとつが、まさにこれでした。想定する体格の幅に対して目の位置がどこに来るかを決め、そこからメーターの文字盤とステアリングの上端がどう重なるかを、何度も検証する。視認性設計と呼んでいた領域です。
ここで社外ステアリングに替えると、いくつかの寸法が同時に変わります。
| 変わるもの | 視界への影響 |
|---|---|
| 径が小さくなる(370mm前後 → 320〜340mm) | リムの上端が下がるので、メーターは見えやすくなる方向 |
| ボスのぶんリムが手前に来る | 近いものほど視界を大きく遮る。見えにくくなる方向 |
| ディープコーンでさらに手前に来る | 同上。影響は大きい |
| スポークの形状と本数が変わる | 純正では逃げていた位置に、太い部材が来ることがある |
| センター部の厚み・ホーンボタンの張り出し | 文字盤の中央付近が隠れることがある |
厄介なのは、これらが逆向きに効くことです。小径化は見えやすくする方向、手前へのオフセットは見えにくくする方向。両方が同時に起きるので、「小さくしたのに見えなくなった」ということが普通に起こります。
そしてもう1つ、いちばん大きな変数が残っています。目の位置です。ステアリングを替えて握りやすい位置を探すうちに、シートまで動かしてしまっている。これが、決まらない調整の正体であることがほとんどです。
順番を間違えると、一生決まらない——シートが先、ハンドルが後
調整が決まらないとき、たいていは2つの可変要素を同時に動かしている状態にあります。シートを動かせば目が動き、目が動けば視線とリムの交点が動く。ハンドルを動かせばリムが動き、やはり交点が動く。両方を交互に動かしていると、いつまでも収束しません。
ですから、片方を先に固定します。順番は決まっていて、シートが先、ハンドルが後です。理由は単純で、シート位置はペダル操作という譲れない条件で決まるからです。ハンドルの位置は、そのあとで合わせられます。逆はできません。
これは量産開発でも同じ順序でした。まずペダルとヒップポイント(着座したときの腰の位置)の関係を決め、そこから目の位置が決まり、最後にステアリングとメーターの関係を詰める。上流から下流へ、一方向に流していく。途中で上流に戻ると、それまでの検討がやり直しになるからです。
ご自身の運転席でも、まったく同じことをします。順番を守るだけで、迷いが消えます。足元も同じ順番で、フットプレートの位置はシートを決めたあとに出します。その手順はフットプレートは、どこに置くと踏みやすいかにまとめてあります。
座面・背もたれ・ペダルまでを、先に固定する
では、シートを決めます。平坦で安全な場所に停め、パーキングブレーキをかけた状態で行ってください。
- 前後位置を決める。クラッチを踏み切ったとき(AT車ならブレーキを強く踏み込んだとき)に、膝がわずかに曲がって余裕が残る位置。伸び切る位置は論外ですが、曲がりすぎも力が入りません
- 座面の高さを決める。調整機構がある車では、ボンネットの先や交差点の路面が無理なく見える高さに。高くするほど視界は増えますが、頭上の余裕とロールしたときの体の支えは減ります
- 背もたれの角度を決める。肩を背もたれに付けたまま、腕を伸ばしてリムの上端に手首が載る角度が目安です。ここで肩が浮くなら、背もたれが寝すぎています
- ここで一度、手を離して座り直す。力を抜いて自然に座り、ずれていないか確かめます。この確認を飛ばすと、あとで必ず戻ってきます
- シート調整はここで終わり。以降、この記事の作業中はシートに触らないでください
フルバケットシートを入れている場合は、リクライニングで微調整ができません。そのぶん前後位置とレールの取り付け高さが効いてきますので、より慎重に決めてください。ディープコーンでリムを手前に引き寄せるという考え方は、まさにこの制約への対処です。詳しくはステアリングが遠いと感じたらにまとめています。
チルトは「メーターを避ける」ためだけに使わない
シートが固定できたら、ここでようやくハンドル側を動かします。ただし、順番があります。テレスコピックが先、チルトが後です。
テレスコピック(ステアリングの前後位置調整)は、握ったときの肘の角度を決めます。肩を背もたれに付けたまま、リムの上端に手首が載る位置。ここから握り直したとき、肘に少し余裕が残っているのが目安です。まずこれを決めます。前後位置が決まらないうちに角度を触っても、握りの感触は安定しません。テレスコピック機構がない車では、この工程はボスとステアリングのオフセットで一度きり決まっているということになります。
そのあとでチルト(角度調整)に入ります。ここで多くの方が、メーターを見えるようにすることだけを目的に角度を決めてしまいます。それが失敗のもとです。チルトが決めているのは、メーターの見え方だけではありません。
- リムの面と手のひらの当たり方。角度が合わないと、切り込んだときに手首が返りにくくなります
- ウインカーレバーやワイパーレバーへの指の届き方
- 膝とリム下端のクリアランス。乗り降りのしやすさにも直結します
- 大舵角を使うときの、腕がぶつからない余裕
ですからチルトは、まず操作しやすい角度で決めてください。そのうえでメーターを確認する。ここで見えていれば、それが答えです。見えなければ、次の節へ進みます。順番を逆にして、見える角度から入ってしまうと、操作性を犠牲にしたまま固定されてしまいます。
決まったあとは、必ずレバーをしっかりロックしてください。走行中に動くようでは意味がありませんし、危険です。交換後に確認しておきたい項目は交換後の初回走行チェックリストにまとめてあります。
それでも隠れるなら、ディープコーンとスポーク形状を疑う
順番どおりにやっても隠れるなら、原因はステアリング側の寸法にあります。疑うべきは2つです。
1つ目が、ディープコーンの深さです。リムが手前に来ると、視線に対して大きく張り出します。近いものほど視界を遮る面積が大きくなるのは、指を目の前にかざしてみればすぐ分かります。ポジションを詰めるために選んだディープコーンが、視界では逆に働いているわけです。
この場合、フラットタイプに替えるという選択肢があります。当店のW05 フリスビー(¥48,000・340mm・グロスブラック・ドライカーボン・ラウンド/フラットタイプ・重量450g・PCD 70mm)は、リムがボス取付面とほぼ同じ位置にあるフラット形状です。ディープコーンで見えにくくなっていたなら、フラットに替えることで視線の通り道が戻ります。
2つ目が、スポークの形状と本数です。純正はメーターの文字盤を避けるようにスポークが配置されていることが多いのですが、社外品は意匠優先で位置が変わります。とくに、上側にスポークが来るデザインは、直進状態で文字盤の上半分に重なることがあります。カタログ写真では気づきにくいので、可能なら実物を正面から見て、どの角度でどこに部材が来るかを確かめてください。
径そのものについては、単純に小さくすれば解決するとは限りません。小径化は保舵力(据え切りや低速での重さ)を増やす方向に働きますので、視界だけを理由に決めるのは避けてください。径と形状の基本的な考え方はステアリングホイールのコレクションで、実際の寸法とあわせて比べられます。
なお、保安基準の観点では、運転操作や計器の視認を妨げる状態は指摘の対象になることがあるとされています。メーターの必要な情報が読み取れない状態のまま乗り続けるのは避け、判断に迷うときは事前に整備工場や検査場へご相談ください。
追加メーターを足す前に、この作業を済ませておく
油温計や油圧計を追加しようと考えている方は、この調整を終えてから取り付け位置を決めてください。順番が逆になると、二度手間になります。
理由は明快です。追加メーターの位置は、目とメーターを結ぶ直線の上に、リムやスポークが来ないところを選ぶ必要があります。ところがステアリング側の調整が終わっていなければ、その直線がまだ確定していません。仮の姿勢で位置を決めてしまうと、あとからチルトを動かした瞬間に隠れます。
当店のP07/P08 シングル メータースタンド(53mm/60mm)(¥4,800)は、3mmのCNC加工ドライカーボンから作られたシングルメーター用のスタンドで、53mmと60mmのアフターマーケットメーターに対応します。取り付け位置を決めるときは、実際に運転姿勢を取って、次の3点を確かめてください。
- 目とメーターの直線上に、リムもスポークも来ていないか。直進状態と、少し切った状態の両方で確認する
- 純正メーターの必要な部分を、追加したメーターが隠していないか
- 手を伸ばしたときに、体や腕が当たらないか。エアバッグの展開範囲にかかっていないか
映り込みという別の論点もあります。ダッシュボード上に置くメーターは、角度によってフロントガラスに反射します。この扱いはメータースタンドの位置と映り込みで詳しくお話ししていますので、位置を決める前にあわせてご覧ください。
まとめ:この順番で、一度で決める
調整が決まらないのは、腕が悪いからではなく、順番が逆になっているからです。上流から下流へ、一方向に流してください。
- 平坦な場所に停め、パーキングブレーキをかけてから始める
- シートを先に決める。前後位置 → 座面の高さ → 背もたれの角度 → 座り直して確認
- シートが決まったら、以降は触らない。ここが動くと、すべてやり直しになる
- ハンドルはテレスコピックが先。肩を付けたまま、肘に余裕が残る位置に
- チルトは操作しやすい角度で決める。メーターを避けることを目的にしない
- それでも隠れるなら、ディープコーンの深さとスポークの位置を疑う。フラット形状への変更も選択肢
- 決まったらレバーを確実にロックし、初回走行後にボルトを増し締めする
- 追加メーターの位置決めは、この作業をすべて終えてから
視認性設計というと大げさに聞こえますが、やっていることは「目とメーターを結んだ線の上に、何も置かない」という一言に尽きます。その線を確定させるために、シートから順に固めていく。手順そのものが設計になっている、という感覚を一度つかんでしまえば、次にステアリングを替えるときは迷いません。
FEATURED IN THIS ARTICLE
この記事で紹介した商品
関連記事






