直進しているのに、ロゴが傾いている|ステアリングのセンターが出ないときに見る順番

社外ステアリングに替えた翌朝、いつもの直線でふと手元を見ると、中央のロゴがわずかに右へ寝ています。手を軽く添えているだけで車はまっすぐ走っているし、切ったときの感触もおかしくない。それなのに、輪だけが数度ぶん傾いている。走りに支障があるわけではないのですが、一度気づくと、その角度が視界の真ん中にずっと居座ります。
純正のときは、こんなことを考えたこともなかったはずです。当たり前のようにまっすぐで、当たり前のように何も気にならなかった。傾きが見えるようになったのは交換した日からです。だから原因は交換にある——ここまでは正しいのですが、では何を回せば直るのか、という段になると急に手がかりがなくなります。緩めて少し回す、という作業ができる場所が、見た目ほど自由ではないからです。
この記事では、センター出しを「感覚で合わせる作業」から「数字で決まる作業」に置き換えます。ずれの種類の切り分け、位相(回転方向の位置)を決めている部品、1歯ずらすと何度動くかという計算、クイックリリースを挟んだときの考え方、そして歯の刻みでは埋まらない端数の扱い方。読み終えるころには、自分のずれが直せる範囲にあるのか、それとも別の場所を見るべきなのかを、最初の1分で判断できるようになります。
ずれには2種類ある——取り付けの位相と、車がもともと持っていたずれ
最初にやるのは原因の切り分けです。同じ「傾いている」でも、中身が二つあります。
一つは取り付けの位相ずれ。ステアリングが、シャフトに対して間違った角度で組まれている状態です。車の直進性は正常で、輪だけが回っている。交換作業でしか起きないので、交換した日を境に現れます。
もう一つは車がもともと持っていたずれです。前輪の向きの調整(アライメント)が左右でわずかに違っていると、まっすぐ走らせるためにステアリングを少し切った位置で保つことになります。純正ステアリングは上下左右が似た形のものが多く、多少傾いていても読み取れません。社外ステアリングに替えると、ロゴやスポークの形で角度が分かるようになり、隠れていたずれが表に出てきます。交換が原因ではなく、交換が可視化しただけというケースです。
| 見え方 | 疑う原因 | 見る場所 |
|---|---|---|
| 交換した日から出た。傾き角は毎回同じ | 取り付けの位相ずれ | ボスとシャフトの噛み合わせ |
| 交換前から同じ傾きがあった | もともとのずれ | 前輪の向きの測定 |
| 輪をまっすぐに戻すと車が片側へ寄る | もともとのずれ | 前輪の向きの測定 |
| 輪をまっすぐに戻しても車はまっすぐ走る | 取り付けの位相ずれ | ボスとシャフトの噛み合わせ |
切り分けの実地の手順は簡単です。平坦でまっすぐな道で、手を軽く添えるだけにして走ります。車がまっすぐ進んでいるときの輪の角度を覚えたら、今度は輪をまっすぐの位置に戻して、車がどちらへ向かうかを見る。まっすぐ走り続けるなら、輪だけがずれています。片側へ寄っていくなら、車の側にずれがあります。交通量のない場所で、ごく短い距離で確かめてください。
前輪の向きは、専用の測定機で四輪を測って調整する作業です。タイロッドを自分で回して合わせることは、走行にかかわる部分ですので整備工場に依頼してください。この記事で扱うのは、表でいう「取り付けの位相ずれ」のほうです。
位相を決めているのは、ボスの内側にある歯
ステアリングシャフトの先端には、放射状の細かい溝が刻まれています。セレーション(スプラインとも呼びます)という歯で、ボスの内側にも同じ形の歯があり、この歯どうしが噛み合うことで回転が伝わります。
ここで大事なのは、この噛み合わせが連続ではなく、とびとびだということです。歯と歯の中間の位置では嵌りません。ボスは、歯の数だけ用意された位置のどれかにしか付かない。「あと2度だけ回したい」は、原理的にできない相談です。
その先、ボスとステアリングは6本のボルトで留まります。穴は円周上に等間隔なので、1穴ずらすと60度動きます。センターの微調整には粗すぎる刻みです。PCDと穴の測り方についてはボスとPCDが分からないにまとめました。
| 動かす場所 | 1段ぶんの角度 | 使いどころ |
|---|---|---|
| シャフトとボス(歯の噛み合わせ) | 360度 ÷ 歯数 | センター出しの本命 |
| ボスとステアリング(6穴) | 60度 | スポーク位置の大きな組み替え |
| クイックリリースの上下 | 製品によって異なる | 説明書で確認する |
1歯ずらすと何度動くか——360を歯数で割る
歯の数は車種によって違います。カタログを探すより、数えるほうが確実です。純正ステアリングを外した状態で、シャフト先端の歯を真上から1枚撮ってください。画面の上で12時の位置から順に印を付けていくと、数え間違いが減ります。
数えたら、360をその数で割ります。それが1歯ぶんの角度です。
| 歯数 | 1歯ぶんの角度 | 2歯ぶん |
|---|---|---|
| 30 | 12.0度 | 24.0度 |
| 36 | 10.0度 | 20.0度 |
| 40 | 9.0度 | 18.0度 |
| 48 | 7.5度 | 15.0度 |
表の数字そのものより、直せる角度がとびとびになるという事実のほうが重要です。歯数が36の車で7度傾いていたとします。1歯戻すと10度動くので、今度は3度ぶん逆に傾きます。7度というずれは、この車では消せません。センター出しがときどき「どうやっても合わない」と言われるのは、腕の問題ではなくこの刻みのせいです。
逆に言えば、歯数が多いほど刻みは細かく、合わせやすくなります。自分の車の刻みが何度かを先に知っておけば、「これは1歯で消えるずれ」「これは残るずれ」の判断が、作業を始める前につきます。
形によって、傾きの見えやすさも変わります。当店のW02 ディーピーフォージド(¥48,000)は、340mm径・ドライフォージドカーボン・重量450gのディープディッシュ(深さ90mm)で、ボルトパターンは70mm PCDです。鍛造カーボンの模様は一組ずつ流れ方が違い、中心のプレートとあわせて角度の手がかりが多くなります。手がかりが多い形ほど、センター出しを丁寧にやる価値があります。ほかの形はステアリングホイールの一覧でご覧いただけます。
ボスを一度外して、噛み合わせを1歯変える
作業そのものは単純です。難しいのは、外す前と後で何が変わったのかを見失わないことなので、順番を先に決めておきます。
- 平坦な場所で車をまっすぐ走らせ、直進する位置で停める。エンジンを切る。
- ステアリングの上端に養生テープを貼り、動かない部分(コラムカバーなど)にも同じ高さで印を付ける。これがずれ角の基準になります。
- センターナットを緩め、ステアリングとボスを一体のまま抜く。
- 直したい向きへ歯を1つぶん送った位置で、嵌め直す。
- 仮に留めた状態でテープの位置を見て、方向が合っているかを確かめる。
- ホーンの配線を戻し、鳴ることを確認する。
- センターナットを指定のトルクで締め、初回の走行後に増し締めする。
3でボスとステアリングを分解しないのが要点です。分解すると6穴のほうも動いてしまい、何を変えたのかが分からなくなります。一度に動かすのは1か所だけ、というのが失敗しない作法です。
なお、純正ステアリングにエアバッグが内蔵されている車では、脱着に火工品の取り扱いが含まれます。作業に慣れた専門店にご相談ください。ホーンは車に備えることが求められている装置ですので、鳴らない状態のまま走らないようにしてください。取り付け直後に見ておく項目は交換後の初走行チェックリストにまとめています。
専用ボスが用意されている車なら、この作業の見通しは良くなります。P17 ステアリングボス(GT86 / BRZ用)PCD 70mm(¥9,800)は、トヨタGT86/スバルBRZ専用に設計したビレットアルミ製で、航空機グレードのアルミをCNCで削り出しています。ステアリング側は70mm PCD対応、オフセットはドライビングポジションを考えて設定しています。ボスまわりの部品はパフォーマンスにまとめました。
クイックリリースを挟むと、基準が一段増える
クイックリリース(工具なしでステアリングを着脱できる部品)を使っていると、位相にかかわる場所が一つ増えます。シャフトとボス、ボスとクイックリリースの下側、クイックリリースの上下、そしてステアリング。噛み合う面が4か所になるわけです。
製品によって、上下が嵌る向きが1通りに決まっているものと、複数の向きで嵌るものがあります。複数の向きで嵌るタイプなら、そこでも角度を選べます。まず説明書を読んで、自分の製品がどちらなのかを確かめてください。
順序としては、クイックリリースを外した状態でボスとステアリングだけでセンターを合わせ、そのあとで挟むのが分かりやすい。挟んだまま合わせようとすると、どの面を動かしたのかが追えなくなります。クイックリリースのガタやホーンの通し方、盗難への備えについてはクイックリリースのガタとホーン、盗難対策に書きました。
外したステアリングの置き場所も、あわせて決めておくと作業が楽になります。A08 ステアリング ハブマウント(¥3,200)は、取り外したステアリングホイールを任意の位置に取り付けるためのハブです。幅側のM6ボルトで本体を固定すれば、壁でもラックでも好きな場所に留められます。ミスミ製アルミフレームに取り付けるための専用アダプターが付属し、WORKS BELLおよびNRGのクイックリリースステアリングハブと互換性があります。作業中の仮置き場所としても、外して保管する期間の定位置としても使えます。
歯で合わない端数を、締め込みで埋めない
1歯送ると行き過ぎる、戻すと足りない。この端数が残ったときに、やってはいけないことが一つあります。歯と歯の中間に押し込んで、ナットの締め付けで固定しようとすることです。
セレーションは、歯の面どうしが接触して力を伝える構造です。中途半端に噛んだ状態では、接触する面積が設計より小さくなります。そこに操舵の力が集中すれば、歯を傷めます。締め付けだけで押さえ込んでいる状態は、緩む方向にも進みます。ステアリングは、力の伝達が途切れてはいけない場所です。ここだけは妥協しないでください。
端数が残ったときの現実的な選択肢は、三つです。
- 許容する。数度の傾きで、走りが変わるわけではありません。気になるかどうかは見え方の問題です。一週間乗ると、たいてい見えなくなります。
- 読み取りにくい形を選ぶ。スポークが上下左右で似た形のステアリングなら、数度の傾きは角度として読めません。ロゴの向きが目立つ形ほど、ずれが見えます。
- 前輪の向きを測ってもらう。もともとのずれが混ざっている場合、そちらを直せば端数のほうが消えることがあります。
三つ目は、意外と当たりが出ます。交換で表に出たずれの正体が、実は交換前からあったものだった、というのはよくある話です。順番としては、まず1歯の調整で近いところまで持っていき、それでも残る端数について測定を検討する、という流れが無駄がありません。
次に交換するときのために、交換前に1枚撮っておく
ここまでの切り分けを一気に楽にする一手があります。純正ステアリングを外す前に、直進状態のコックピットを1枚撮っておくことです。
撮るのは、運転席に座った目線から、ステアリングとメーターが一緒に写る構図。これがあると、交換後に「元はどうだったか」を記憶で戦わずに済みます。もともと2度傾いていたのなら、交換後に2度傾いていても、それは交換のせいではありません。この1枚がないと、その判断に一日かかります。
もう1枚あると良いのが、外した直後のシャフト先端の写真です。歯を数えるのはこの写真でできますし、噛み合っていた位置に印を残しておけば、1歯という単位が実感を伴います。撮影は5秒で終わって、その日の30分を節約します。
まとめ:直せる角度は、歯数が決めている
センター出しは感覚の作業に見えますが、実際には歯の数が決めている、とびとびの問題です。確認する順番をまとめます。
- 交換前から傾いていたか、交換した日から出たかを思い出す。前からなら前輪の向きを疑う
- まっすぐ走る位置で停め、ステアリングとコラム側にテープで基準の印を付ける
- シャフト先端の歯を数え、360を歯数で割って1歯ぶんの角度を出す
- ずれ角がその角度の倍数に近ければ、ボスを1歯送って直す
- ボスとステアリングは分解しない。一度に動かす面は1か所だけにする
- クイックリリースがあるなら、外した状態で合わせてから挟む
- 端数を締め込みで埋めない。許容するか、前輪の向きを測ってもらう
- ホーンが鳴ることと、初回走行後の増し締めを必ず確認する
数度のずれが気になるのは、その車をよく見ているからです。見ていない人には見えません。せっかく見えるのなら、直せる範囲と直せない範囲を数字で持っておくほうが、毎日の視界は静かになります。
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