メーターは、あとから増やせるか|1連から3連へ、順番と買い直しの分かれ目

油温計をひとつ付けたのは、去年の春でした。走行会に出るならまず油温だと言われて、それだけを買い、シングルのスタンドに載せてダッシュボードの上に据えました。実際、便利でした。走っているあいだ、車の状態がひとつだけ見えているという安心感がある。しばらくはそれで満足していたのです。
ところが半年ほど経って、油圧が気になり始めました。というより、油温だけ見ていると「この数字が上がってきたのは何のせいなのか」が分からないことに気づいた、というほうが正確です。そこで二個目を探し始めて、ようやく手が止まりました。スタンドはどうなるのか。いま使っているシングルの横に、もうひとつ足せるのか。それとも買い直しなのか。配線はまた全部やり直しなのか。買う前に知っておきたかった話が、買ったあとに出てきた形です。
この記事では、追加メーターを1個から2個、2個から3個へ増やすときに何が買い直しになり、何がそのまま使えるのかを部品ごとに分けて整理します。そのうえで、いま1個目を選んでいる人が将来の増設を見越して何を決めておくべきか、逆に「増やさない」と決めるならどう考えるかまでお話しします。数字の根拠になる価格は当店の製品のもので示します。
スタンドは穴の数だけ決め打ちの部品——あとから穴は増やせない
先に、いちばん残念な事実から書きます。メータースタンドは、穴の数が形そのものです。あとから穴を足すことは、現実的な選択肢になりません。
当店のスタンドは3mm厚のドライカーボンをCNCで削り出して作っています。穴の位置と間隔、そして穴と穴のあいだに残る板の幅は、削る前の図面の段階で全部決まっています。板の一部を丸く抜くということは、その分だけ残った部分で力を受けるということです。穴が一つ増えれば、残る材料は減ります。設計側は、その残り幅で必要な剛性が出るように外形を決めています。あとから穴を足すのは、その前提を崩す作業になります。
作業そのものの難しさもあります。カーボンは繊維を樹脂で固めた材料なので、切ると細かい粉が出ます。それを車内で、しかもダッシュボードの上に載せたままやることになる。取り外して屋外で加工するとしても、切り口の処理と、削った縁からの層の剥がれを気にしなければなりません。できるかできないかで言えばできますが、割に合わないという意味で選択肢に入りません。
ですから、連数を増やすときはスタンド自体を買い替えることになります。ここは避けられない前提として先に置いておきます。
買い直しになるもの、流用できるもの
とはいえ、全部が無駄になるわけではありません。増設のときに何がどうなるかを、部品ごとに分けてみます。
| 部品 | 1連から2連へ増やすとき | 理由 |
|---|---|---|
| メータースタンド | 買い直し | 穴の数と間隔が形として決まっている |
| メーター本体(1個目) | そのまま流用 | スタンドから外して新しいスタンドへ移すだけ |
| 1個目のセンサーと取付部 | そのまま流用 | エンジン側は触らずに済む。追加分だけ新規 |
| 電源・アース・照明の配線 | 一部流用 | 幹の部分は使える。ただし通し直しが発生しやすい |
| スタンドを留めている土台や粘着材 | やり直し | 外形が変わるので、貼り直しになる |
| 2個目のメーターとセンサー | 新規 | 増設分そのもの |
この表を見ると、買い直しになるのはスタンドと、その貼り付け部だけだと分かります。メーターもセンサーも配線も、基本的には引き継げます。増設は「全部やり直し」ではありません。ここは安心していい部分です。
ただし、貼り付け部については一点だけ心づもりが要ります。剥がした跡が残る場合があります。粘着材はダッシュボードの表面に食い付いていますし、その周囲だけ日焼けの度合いが違うということも起こります。外形の違うスタンドに替えると、前のスタンドが隠していた範囲と新しいスタンドが隠す範囲がずれるので、そのずれた部分が見えてくる。増設のときに「思っていたより見た目の作業が増えた」と感じるのは、たいていこれが理由です。剥がし方と跡の処理は、貼る前に一度調べておいてください。
センサー側についても補足を。1個目のセンサーはそのまま残せますが、2個目のセンサーを付けるためにエンジンルーム側の作業が新たに発生します。つまり増設の作業量は、室内側(スタンドと配線)とエンジンルーム側(センサー)の両方に分かれます。室内側だけを想像していると、当日の見積もりが半分になります。
金額でも見ておきます。当店のP07/P08 シングル メータースタンド(53mm/60mm)は¥4,800、P09/P10 2連メータースタンド(53mm/60mm)は¥5,800です。1連を買ったあとに2連へ買い替えると、スタンドだけで合計¥10,600。最初から2連を買っていれば¥5,800。差は¥4,800です。この¥4,800を「無駄」と見るか、「1個で足りるかを実車で確かめた費用」と見るかが、この記事の分かれ目になります。
本当に手間なのは、スタンドより配線をもう一度通すこと
ここまでは部品の話でした。ですが、実際に増設をやってみると、時間を食うのはスタンドの交換ではありません。配線です。
理由は、配線という作業の性質にあります。ダッシュボードの上から電源やアース、照明の線をきれいに隠して通すには、内装の一部を浮かせるなり外すなりする必要があります。そして、この「開ける」手間は、通す線が1本でも3本でも大して変わりません。開けて、通して、戻す。この一往復が重い。増設で二度手間になるのは、まさにこの一往復をもう一度やるところです。
もうひとつ、線を切り詰めてしまっているとやり直しの幅が狭くなります。1個目を取り付けたとき、余った線が邪魔だからと短く切って端子を付け直した——これは見た目のうえでは正解なのですが、増設のときには不利に働きます。スタンドの外形が変われば、メーターの位置は数センチずれます。そのわずかなずれを、切り詰めた線が吸収できないことがある。
設計の現場でも、これとまったく同じ話をします。組立の手間は部品の点数ではなく、作業の「開け閉め」の回数で決まる。一度開けたときにどこまで済ませられるかを設計側が考えておかないと、現場は同じ場所を二度開けることになります。個人の作業でも構造は同じで、内装を一度剥がしたときに、次に来るかもしれない一本ぶんの余地まで作っておけるかどうか。そこが分かれ目になります。
配線の通し方そのものについては追加メーターの配線をどこに通すかで詳しく書きましたので、これから1個目を付ける方はそちらも読んでおいてください。増設まで見据えるなら、読む順番としてはそちらが先です。
将来2個目を付ける気があるなら、いま何を決めておくか
いま1個目を選んでいる方に向けて、あとから効いてくる決めごとを三つ挙げます。どれも、いま決めておけばコストがゼロで、あとから直すと高くつく種類のものです。
- メーターの径を揃えると決める。当店のスタンドはサイズが53mmと60mmから選ぶ形になっていて、ひとつのスタンドで混在させることはできません。1個目を53mmで組んだなら、2個目も53mm。ここが揃っていないと、2連スタンドを買っても収まりません。増設の可能性が少しでもあるなら、1個目を買う時点で径を決めてしまってください
- 置き場所を、幅が広がる前提で見ておく。1連のときにちょうどいい場所が、2連・3連になると視界にかかることがあります。座った姿勢で、板が横に伸びたらどこまで来るかを一度想像しておくと、あとで場所ごと動かす事態を避けられます
- 配線に余りを残しておく。切り詰めない。余った分は、たるませてまとめ、内装の内側に隠しておく。見た目は変わりませんが、増設のときの自由度がまるで違います
この三つのうち、いちばん見落とされるのが径です。メーターは1個目と2個目でメーカーが違うことも珍しくありませんし、そのときに径まで気が回らない。買う前に、手元のメーターの取付穴径をもう一度確認する。説明書か箱に書かれていますし、なければメーター後方の円筒部の外径を測ります。表面の縁ではなく、穴に入る筒のほうです。
3連まで行くなら、最初から余長を残しておく
最終的に3連まで行くつもりがある方は、考え方を少し変えたほうがいいかもしれません。P11/P12 3連メータースタンド(53mm/60mm)は¥6,800です。1連(¥4,800)、2連(¥5,800)と順に買い上がると、スタンドだけで合計¥17,400になります。
だからといって「最初から3連を買うのが正解」とも言い切れません。使っていない穴が空いたままのスタンドは、その分だけ余分に視界を塞ぎます。ダッシュボードの上は、車内でいちばん前方視界に近い場所です。まだ載せる予定のないメーターのために板を広げておくのは、日常の運転においては損な取引になります。
現実的な折衷案は、スタンドは必要になってから買い、配線だけ先に余裕を持たせておくことです。増設で重いのは配線側だと書きました。そちらを先回りしておけば、スタンドの買い替えは板を交換してメーターを移すだけの、比較的軽い作業に収まります。配線の余長は場所を取りませんし、費用もかかりません。先に投資すべきなのは、板ではなく余りのほうです。パフォーマンス系の製品はパフォーマンス一覧にまとめています。
増やさないと決める——視線の移動先は少ないほうがいい
最後に、増設の記事でこれを書くのは妙かもしれませんが、大事なことなので書きます。増やさないという選択も、きちんと有力です。
メーターは、走行中に視線を落として読むものです。数が増えれば、見る対象が増えます。見る対象が増えれば、前を見ていない時間が延びます。この関係は、どれだけ配置を工夫しても完全には消えません。追加メーターはどこに置くべきかで書いたとおり、置き場所の設計で減らせるのは移動の量までで、対象の数までは減らせないからです。
数が増えると、読み取りの負担も変わります。1個なら「見る」だけで済みますが、3個並ぶと「どれを見るか」を選ぶ手順がひとつ挟まります。この選ぶ時間は短いようで、走行中には効きます。複数を並べるときに、正常な状態での針の向きを揃えておくという工夫があるのはそのためです。向きが揃っていれば「揃っているか」だけを見れば済み、選ぶ手順が消える。増やすなら、この一手間まで含めて計画に入れておいてください。
だから、2個目を買う前に一度だけ自問してみてください。「この値を、走行中に本当に見るのか」。見るのではなく「あとで確認したい」のなら、走行中に見える位置に置く必要はありません。「異常が出たときだけ知りたい」のなら、常時表示ではない方法もあります。何をいちばん先に付けるべきかという議論は追加メーターは、どれから付けるべきかにまとめてありますが、その裏返しとして「二つ目は本当に要るのか」も同じ枠組みで考えられます。
私たちが部品を設計するときも、機能を足すより落とすほうが難しく、そして効きます。増やすのはいつでもできる。減らすのは、増やしたあとでは決心が要る。増やさないと決められるのは、いま1個で走っている人だけが持っている自由です。
まとめ:増設の前に確認すること
「あとから増やせますか」への答えは、部品ごとに分かれます。スタンドは買い直し、それ以外はおおむね流用できる。そして本当の手間は配線側にあります。
- スタンドの穴は増やせない。連数を変えるときはスタンドを買い替える前提で考える
- メーター本体・センサー・配線の幹は流用できる。増設は全部やり直しではない
- メーターの径を揃える。53mmと60mmは混在できない。1個目を買う時点で決める
- 配線を切り詰めない。余りをたるませて隠しておく。増設で効いてくるのはここ
- 金額で比べる。1連¥4,800 → 2連¥5,800への買い替えで合計¥10,600、最初から2連なら¥5,800。差の¥4,800を「確かめた費用」と見られるかで判断する
- 3連(¥6,800)を最初から買うかは、視界とのつり合いで決める。空いた穴のぶんだけ前方が塞がる
- 増やす前に「走行中に本当に見るのか」を一度問う。見ないなら、常時表示にしない選択もある
増設の相談を受けると、たいてい「今のうちに大きいのを買っておくべきか」と聞かれます。私たちの答えは、板は後で、配線は先に、です。順番を入れ替えるだけで、後悔の量がかなり減ります。
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