チタンボルトはかじる|締める前の一手間と、締めすぎないという考え方

週末の朝、ナンバープレートのボルトをチタンに替えようと思い立ちました。工具は六角レンチが1本あればいい。外して、新しいボルトを入れて、締める。5分で終わる作業のはずでした。ところが2本目、途中まで気持ちよく入っていったボルトが、あと半回転というところで急に重くなる。まだ座面には当たっていない。おかしいなと思いながらもう少し力を入れたら、そこで完全に止まりました。戻そうとしても回らない。抜けもしない。
チタンボルトを扱っていると、この「かじり」のご相談を年に何度かいただきます。多くの場合、原因は力の入れすぎではなく、その前の30秒にあります。チタンという材料には、軽さや錆びにくさや焼き色の美しさと引き換えに、ネジとして扱いにくい性質がひとつあります。それを知らずに、鉄のボルトと同じ手順で扱ってしまう。これが、いちばんよくある失敗の形です。
この記事では、かじりという現象がネジ山で何をしているのか、なぜチタンで起きやすいのか、締める前にできる具体的な手順、電動工具を避けるべき場面、小径ボルトで締めすぎが致命的になる理由、そして当店のチタンボルトの銀と青を選ぶときに知っておいてほしいことをお話しします。トルクの数値は出しません。数値ではなく、手順と手の感覚でこの問題を避けるための記事です。
かじり(ゴーリング)とは、ネジ山同士が噛んで動かなくなること
まず現象から。かじりは、専門的にはゴーリングとか凝着摩耗と呼ばれます。噛み砕くと、こういうことが起きています。
金属の表面は、目には平らに見えても、拡大すれば細かい山と谷です。二つの金属を押し付けて擦り合わせると、接触は面全体ではなく、山の頂点同士のごく狭い点で起こります。荷重が狭い点に集まるので、そこにかかる圧力は驚くほど高くなる。すると、山の頂点同士がくっついてしまうことがあります。そのまま擦り続けると、くっついた部分は剥がれるのではなく、どちらかの母材ごとちぎれる。ちぎれた金属片は相手の表面に移り、新しい突起になり、次はもっと大きくくっつく。これが雪だるま式に進んだ結果が、かじりです。
ネジは、この現象が起きるのに都合のよい形をしています。ネジ山は螺旋の斜面で、締めるという行為は、斜面同士を押し付けながら滑らせる行為そのものです。回せば必ず擦れる。しかも締め込むほど押し付ける力が上がる。つまりネジは、構造として「高い面圧をかけながら金属同士を擦り合わせる装置」なのです。
かじりが厄介なのは、いったん始まると引き返せないことです。緩めれば戻ると思って逆に回すと、今度は逆方向に同じことが起き、状態が悪化します。ネジ山を削り取って抜けたとしても、相手側の穴のネジ山も無事では済みません。ボルトは¥1,500でも、穴のほうを壊すと修理の話が別の規模になります。
チタンで起きやすい理由——酸化被膜と熱の逃げにくさ
かじりは鉄でもステンレスでも起こります。ただ、チタンとステンレスは特に起こしやすい材料として知られています。チタンの場合、理由は主に二つです。
一つめは酸化被膜です。チタンの焼き色はなぜ美しいのかでお話ししたとおり、チタンは空気に触れた瞬間から表面にごく薄い酸化被膜をつくります。この被膜がチタンを錆から守り、厚みを育てれば焼き色という美しさにもなる。ところがネジ山の上では、この被膜が別の顔を見せます。被膜はもともと薄いので、高い面圧で擦られるとあっけなく破れる。破れた下から出てくるのは、まだ空気に触れていない活性の高い金属面です。活性が高いということは、相手とくっつきやすいということでもあります。守ってくれていた膜が破れた瞬間に、いちばんくっつきやすい面が露出する。焼き色を生む被膜と、かじりの引き金になる被膜は、同じものです。
二つめは熱の逃げにくさです。チタンは鉄に比べて熱を伝えにくい材料です。擦れたところで発生した熱が、周囲へ広がらずにその場に留まりやすい。局所的に温度が上がれば、金属はやわらかくなり、なおさらくっつきやすくなります。切削の現場でチタンが「削りにくい材料」とされるのも、同じ性質が理由の一つです。
そして三つめとして、材質が近い者同士は特にくっつきやすい、という一般則があります。チタンのボルトをチタンのナットに入れるのが、いちばん起こしやすい組み合わせです。
まとめると、チタンの美点として語られる「錆びにくい(被膜)」「軽い」「焼き色が出る(被膜)」は、ネジとしての扱いにくさと同じ根っこから出ています。性質を憎んでも仕方がないので、手順で避けます。
締める前にできること——清掃、手で入れる、ゆっくり回す
ここからが実務です。かじりの対策は、締めている最中ではなく、締める前に集中しています。
- 穴とボルトのネジ山を掃除する。 ナンバープレートの取付穴は、バンパー越しに外気にさらされ続けている場所です。砂、古い塗膜のかけら、前のボルトの錆が残っていることがあります。異物が一粒噛むだけで、その点の面圧は跳ね上がり、かじりの起点になります。エアで吹く、ウエスで拭く、それだけで大きく違います
- 手で入るところまで、工具を使わずに回す。 これがいちばん効きます。指の力では、かじりを起こすほどの面圧はまずかかりません。逆に言えば、手で回らないものは、何かがおかしい
- 入り口で斜めに入れない。 ネジが斜めに食い込んだまま力を掛けることを、クロススレッドと言います。斜めに入ったボルトは、ネジ山の一部だけで全部の力を受けるので、一発で噛みます。最初の一回転は、むしろ逆方向に軽く回して、ネジ山が「落ちる」感触を探してから正転させると、斜め入りを防げます
- ゆっくり回す。 速く回すほど摩擦熱が発生し、逃げる時間がなくなります。急がないというだけで対策になります
- 渋くなったら止める。 座面に当たっていないのに重くなったら、それは締結ではなく異常です。無理に押し込まず、いったん戻して、掃除からやり直してください
潤滑剤について触れておきます。かじり防止に潤滑剤を使うという考え方は一般にありますが、潤滑すると同じ回す力でもボルトに掛かる締結力が変わります。つまり、かじりを避けようとして今度は締めすぎの側に振れる可能性がある。当店として使用の可否を指示することはしませんので、使う場合は「同じ手応えでも締結力が変わる」ことを前提に、慎重に扱ってください。
電動工具を使わないほうがいい場面
インパクトドライバーや電動ドライバーは、回転が速く、力の立ち上がりが急です。ここまでの話に照らすと、条件がほぼ全部そろっています。速いから熱が逃げない。急だから手が異常に気づけない。そして小さいボルトほど、気づいたときには終わっています。
ナンバーボルトのようなM6クラスの部品では、電動工具を使う理由がありません。締める本数はせいぜい数本、締める深さも知れています。六角レンチ1本のほうが速いことすらあります。「渋い」という手応えを拾えるかどうかが分かれ目なので、手で締めてください。
小さいボルトほど、締めすぎが致命傷になる
かじりと並ぶもう一つの失敗が、締めすぎです。そしてこれは、ボルトが小さいほど起きやすくなります。
理由は単純な幾何です。ボルトが受け持てる力は、おおよそ断面積に比例します。断面積は直径の2乗で効くので、直径が半分になれば断面積は4分の1になる。ところが、締めるときに人間が出せる力は、ボルトが細くなっても勝手に半分にはなりません。太いボルトなら「あと半回転」の余裕があるところで、細いボルトには余裕がないのです。
手の側でできる対策は、工具の長さを選ぶことです。同じ手の力でも、レンチが長ければ長いほど大きな力がボルトに掛かります。M6のような小径を締めるときに、長い柄のレンチを持ち出さない。短い工具を使えば、出せる力の上限そのものが下がって、締めすぎの側に踏み込みにくくなります。工具でトルクを管理できないなら、工具の長さで上限を管理する。設計の現場でもよく使う考え方です。
ナンバープレートについて言えば、そもそも強く押し付けて固定する部品ではありません。プレートが動かずに保持されていればよいので、そこに大きな締結力は要りません。締めすぎればプレートの穴のほうが歪み、次に外すときに困ります。なお、そもそも何本を替えられるのかは前と後ろで違いますので、ナンバープレートのボルトは、全部替えていいわけではないを先に確認してください。
同じことは、汎用設計の部品を車に付けるときにも当てはまります。当店のA03 アルミ フットプレート(¥4,800)は280mm×160mm、厚み2mmの高強度アルミ製で、商品ページにも「汎用設計のため、装着には車種に応じた加工が必要な場合があります」と書いています。穴の位置が少しずれているときに、ボルトを締める力でそのずれを引き寄せようとするのがいちばんいけません。ボルトには斜めの力が掛かり、かじりと変形の両方が同時に起きます。合わないものは、締める前に合わせる。穴の当たりを見て、必要なら受け側を調整してから、あらためて手で回し始めてください。
銀と青、色で選ぶときに知っておくこと
当店のチタンボルトは2色です。素材と仕様は共通で、違いは表面の色だけです。
| 品番・商品名 | 色 | サイズ | 価格 |
|---|---|---|---|
| A07 チタンボルト シルバー | チタンの素地に近い銀 | M6ボルトとワッシャーのセット | ¥1,500 |
| A06 チタンボルト ブルー | 陽極酸化による青 | M6ボルトとワッシャーのセット | ¥1,500 |
どちらもチタン合金製で、表面にはアノダイック電解被膜処理(陽極酸化)が施されています。日本のナンバープレートに適合する設計で、ボルトは個別販売です。標準的な日本のナンバープレートの取り付けには通常3セットが必要になりますので、必要数をご確認のうえお求めください。
色の選び方についてひとつだけ、この記事の文脈でお伝えしておきたいことがあります。青は塗装ではなく被膜の厚みが生む色なので、洗車を重ねても色が落ちません。ただしその被膜は、ここまで説明してきたとおり、擦れには強くありません。工具を掛ける六角穴の内側や、頭の座面は、締めるときに必ず擦れる場所です。工具をきちんと奥まで差し込む、斜めに掛けない。これは色を守るための作法でもあります。研磨剤入りのコンパウンドで磨くのも厳禁です。色そのものを削り落とすことになります。
ナンバーボルトそのものの選び方や、錆びる・錆びないという観点はナンバープレートのボルトが錆びる話にまとめています。当店の小物のラインアップはその他アクセサリーのコレクションからご覧いただけます。
よくある質問
Q. かじってしまいました。どうすればいいですか
まず、力を入れて回さないでください。ボルトを壊す分には替えが利きますが、相手側の穴のネジ山を壊すと話が変わります。ナンバープレートの取付部のように車体側に付いている場合はなおさらです。無理をせず、整備工場に相談してください。「途中まで入って止まった」「戻そうとしたが動かない」と状況を伝えれば、対処の見当がつきます。
Q. トルクレンチは必要ですか
あるに越したことはありませんが、この記事で数値を示すことはしません。適正な締め付けは、ボルトの材質・サイズ・相手側の材質・潤滑の有無で変わるもので、一律に言えるものではないからです。M6クラスの小さいボルトについては、短い工具を使って、手の感覚で「座面に当たってから、わずかに締める」ところで止める。この運用のほうが、数値を知らないまま長い工具を振り回すより、はるかに安全です。
Q. 焼き色の青は、使っているうちに変わりますか
ナンバープレートまわりのように常温で使う部品であれば、陽極酸化でつくった色は事実上固定されます。くすんで見えるときは、多くの場合が油分や汚れです。脱脂すれば色が戻ります。詳しくはチタンの焼き色の記事をご覧ください。
Q. チタンなら錆びないから、そのまま付けっぱなしでよいですか
チタン自体は錆びにくい材料ですが、ボルトが接している相手側——車体のブラケットやナット——は別の材料です。種類の違う金属が水分を介して接すると、片方の腐食が進むことがあります。付けっぱなしにするのではなく、洗車のついでに頭のまわりを見て、白い粉や錆の滲みが出ていないかを確認する。年に一度、緩めずに目で見るだけでも十分です。
まとめ:1本目を締める前の3分
チタンボルトのかじりは、材料の性質から来る現象なので、気合いでは避けられません。避けられるのは手順です。1本目を締める前の3分に、次のことをしてください。
- 穴とボルトのネジ山を掃除する。砂・塗膜のかけら・古い錆を残さない
- 最初は工具を使わず、手で入るところまで指で回す
- 斜めに食い込ませない。逆に軽く回してネジ山が落ちる感触を探してから正転させる
- ゆっくり回す。速さは摩擦熱になる
- 座面に当たる前に重くなったら、そこで止めて戻し、掃除からやり直す
- 電動工具は使わない。手応えを拾えないことが最大の欠点
- 工具は短いものを選ぶ。工具の長さで、出せる力の上限を管理する
- 穴の位置が合わない部品を、ボルトの力で引き寄せない
- かじったら回さない。整備工場に渡す
ここまでやっても、かじるときはかじります。そのときにボルト1本で済むように、締める前の掃除と、手で回す一手間を惜しまない。¥1,500のボルトを守るためではなく、その先にある穴を守るための3分です。
FEATURED IN THIS ARTICLE
この記事で紹介した商品
関連記事








