同じ型番なのに、1組ずつ違う|ハンドメイドのグローブに出る個体差を正直に話す

気に入って、同じ品番をもう一組買いました。届いた箱を開けて、手元の一組と並べてみる。単体で見れば何の問題もない。色も同じ、形も同じ。ところが、二つを触れるほど近づけて同じ角度で光を当てると、表面の細かいしわの流れ方が揃っていません。片方はやや細かく、片方はゆったりしている。言葉にしづらいけれど、たしかに違う。
離して置けば分かりません。写真に撮っても写りません。それでも、一度気づいてしまうと、その差しか見えなくなる。届いたほうが不良なのか、それとも革とはそういうものなのか。この判断がつかないまま、問い合わせるかどうか迷っている方は、たぶん少なくないと思います。
この記事では、作っている側から正直に書きます。革という材料が何であるのか、差が出やすいのはどの項目か、私たちが幅の中として受け入れている範囲と、不良として弾いている範囲。そして、カタログの写真がどういう位置づけの写真なのか。結論から言えば、並べたときにだけ分かる表情の差は、仕組み上そうなるものです。ただし「だから気にしないでください」で終わらせず、幅の中身を開示します。
革は板ではなく、動物の皮膚だった
当たり前のことから始めます。革は、工場で連続して作られる板ではありません。一頭ぶんの皮膚です。だから一枚ごとに大きさが違い、一枚の中でも場所によって性質が違います。
背中に近い部分は繊維が詰まっていて、厚みがあり、伸びにくい。腹に近い部分は繊維がゆるく、薄く、よく伸びる。首まわりには、その動物が生きていた時間ぶんのしわが刻まれています。この差は、なめし方や染め方でならせるものではなく、素材が生まれた時点で決まっています。
金属の部品なら、材料は規格の中に収まった棒や板として届きます。同じ寸法で切り出せば、同じ性質のものが同じ数だけできる。革は、そうはいきません。一枚の中から、使える場所を人が選んで裁つという工程が必ず入ります。選ぶという行為が入る以上、一組ごとに違う顔になるのは避けられません。
金属側にも似た話があります。着色アルマイトは槽の温度や素材のロットで発色が動くので、並べたときだけ分かる色差が出ます。そちらは同じ色を注文したのに、少し違うに書きました。原因はまったく違うのに、「並べたときだけ分かる」という現れ方が同じなのは、少し面白いところです。
出やすい差は、主に4つ
では、具体的にどこに差が出るのか。並べたときに気づかれやすい順に4つ挙げます。
| 出る場所 | どう見えるか | 原因 |
|---|---|---|
| 色の濃さ | 同じ色名なのに、片方がわずかに深い | 革の厚みと下地の差、染料の入り方 |
| シボの粗さ | 表面の細かいしわが、細かい/ゆったり | 裁った部位の違い |
| 縫い目のピッチ | 針の間隔がわずかに揃わない | 人が革を送りながら縫うため |
| 指またの深さ | 指の付け根の当たり方が少し違う | 縫製時のわずかな寄り |
シボというのは、革の表面にある細かいしわ模様のことです。人工的に付ける場合もありますが、天然の革ではもともとその動物が持っていた皮膚の模様がそのまま出ます。背中側から裁てば詰まった細かい模様に、腹側なら少しゆったりした模様になる。模様が違うのではなく、体のどこから来たかが違うということです。
色の濃さについても、仕組みは同じところに帰着します。染料は革に染み込んで色になるので、厚い革と薄い革では入る量が違います。下地の色にも幅がある。塗料を上に載せる塗装と違って、素材そのものが色の一部になっているわけです。
革の種類によっても表情の出方は変わります。羊革はきめが細かく柔らかい、鹿革は繊維がしなやかで伸びる——このあたりの違いは鹿革・羊革・牛革の違いにまとめました。
時間が経つとこの差はどうなるか、というご質問もいただきます。答えは、縮む方向にも、広がる方向にも動きます。革は使われるほど手の脂を吸って色が深まるので、よく使うほうだけが濃くなれば差は広がる。一方で、シボの流れのような表情の差は、革が手に馴染むにつれて目立たなくなっていきます。買った時期がずれた二組を比べるときは、この「使われてきた時間の差」が混ざっていることを差し引いて見てください。
私たちが許容している範囲と、弾いている範囲
基準を持たないと、問い合わせのたびに違う答えが出てしまいます。数値では線を引けない世界なので、判断の基準として開示します。
幅の中として扱うもの:
- 同じ色名の中での、濃さや色味のわずかな差。二つを近づけ、同じ角度で光を当てて初めて分かる程度のもの
- シボの粗さや流れ方の違い。部位の差から来るもの
- 細かいしわ、うっすらとした筋。その革が生き物だったことの痕跡で、強度に関わらないもの
- 縫い目のピッチのわずかな不揃い。手の作業である以上、必ず出るもの
- 左右で表情が少し違って見えること(理由は次の章で書きます)
不良として扱うもの:
- 穴、裂け、革を貫通した傷
- 縫い目が飛んでいる、糸がほどけて縫製が繋がっていない箇所がある
- 左右でサイズが明らかに違う、あるいは表示のサイズと合っていない
- 指またや縫い代が当たって、着けた瞬間に痛みを感じる
- 軽く乾拭きしただけで、色が布に大きく移る
なぜ数値で線を引かないのか、という点にも触れておきます。色差を数値で管理する方法は工業の世界にありますし、金属の部品であれば私たちもそうしています。ただ革は、同じ一組の中でも場所によって値が動くので、どこを測るかで結果が変わってしまう。測れる対象になっていない、というのが正直なところです。だから測る代わりに、見る条件のほうを揃えて判断するという方法を採っています。二つを触れるほど近づけ、同じ角度で光を当てる。これが私たちの検査台の見方です。
境界にあるのは、「離して置いても違うと分かる」ケースです。ここは写真をお送りいただいて、こちらで判断します。撮り方のお願いを一つ。二組を並べて、斜めから低い角度で光を当てて撮ってください。真正面からのフラッシュ撮影では、差が消えて写ります。出荷前にどこを見ているかは出荷前の検品でどこを見ているかに書きました。
カタログの写真は、1組を撮っている
ここも、正直に書いておきたい部分です。商品ページに載っている写真は、その品番のある1組を撮ったものです。全数を撮って平均した画像ではありません。
つまり、写真に写っているシボの流れも、光の当たった部分の濃さも、その1組が持っていた顔です。届いた一組が写真と少し違うのは、写真のほうも一つの個体だからです。代表として選んではいますが、代表であって平均ではありません。
加えて、写真は撮影の光と、ご覧になっている画面の設定を通ります。同じ画像でも、機種や明るさの設定で見え方は動きます。この点はカタログ写真と実物の色にもまとめました。写真は形とおおよその雰囲気を伝えるもので、色や表情の完全な一致を約束するものではない、というのが私たちの立場です。
差が見えやすいのは、色が明るいものと、素材の表情が主役になっているものです。G19 クラシック・ラム(ブラウン/羊革/ハーフフィンガー/ハンドメイド)(¥7,800)は、アンティーク感のあるクラシックブラウンの天然シープスキンを、職人が仕立てたハンドメイドのハーフフィンガーです。ブラウンという色は濃淡の幅が読み取りやすいので、二組並べたときの差もいちばん分かりやすい部類に入ります。逆に言えば、その差こそが天然の革を選んだ理由でもあります。
黒は、差が最も隠れる色です。G20 ヘリテージ・ディア(ブラック/鹿革/フルフィンガー/ハンドメイド)(¥8,800)は、ディアスキン(鹿革)を使ったフルフィンガーのロングタイプで、こちらもハンドメイド。黒は光をほとんど返さないので、濃さがわずかに動いても目に入る情報が少なく、並べたときの違和感は小さくなります。買い足しの予定があって、揃っていることを重視されるなら、黒は裏切りにくい色です。
左右で少し違って見えるのは、裁断の向きが違うから
もう一つ、よくいただくのが「左右で表情が違う」というご指摘です。これには、はっきりした理由があります。
革には、伸びやすい方向と伸びにくい方向があります。背骨に沿った向きは伸びにくく、それと直交する向きはよく伸びる。グローブを裁つときは、手に必要な伸び方に合わせて向きを決めます。ところが、右手と左手は鏡に映した関係です。同じ一枚の革から、まったく同じ位置・同じ向きで両手ぶんを取ることは、原理的にできません。
だから左右は、隣り合った場所から、あるいは向きを変えて裁たれます。隣り合っていても、革の中では別の場所です。左右差は、精度の不足ではなく、裁断という工程が必ず持っている性質だと考えてください。伸び方を優先するか、見た目の揃いを優先するか——私たちは、着けたときの性能のほうを優先しています。
ハンドメイドという言葉が、実際に意味していること
「ハンドメイド」は、良い響きの言葉です。ただ、実務的に何を意味しているかというと、人が判断する工程が入っているということに尽きます。
どこを裁つか、どの部位を掌に持ってくるか、縫いながらどれだけ革を送るか。これらは毎回、人が決めています。だから一組ごとに違う。同時に、機械には難しいことも起きます。革のわずかな厚みの差を手が感じ取って、縫う力を加減する。この加減は、図面には書けません。差が出ることと、良いものができることは、同じ工程から来ているわけです。
複数の色を組み合わせた製品では、この性格がさらに強く出ます。G13 ツートンレーシンググローブ(ハンドメイド)(¥8,800)は、クラシック・ル・マンに挑んだ往年のワークスチームからインスパイアされた2トーンカラーのハンドメイドで、素材は天然シープスキン、仕様はハーフフィンガー。色の境目がある製品は、二つの革をどこで合わせるかという判断が一組ごとに入るので、境界の見え方に個性が出ます。ほかの色や仕様はグローブの一覧でご覧いただけます。
なお、これらのハンドメイドのグローブはSmall・Medium・Largeの3サイズ展開です。サイズは手のひらのいちばん広い部分(親指を除く)を一周した手囲いで選びます。やや大きめの作りですので、ぴったりとしたフィット感をお求めの方は、ワンサイズ下もご検討ください。
まとめ:当たり外れではなく、その一組の顔
個体差との付き合い方を、最後にまとめます。
- 革は板ではなく一頭ぶんの皮膚。部位によって厚みも、伸び方も、表面の模様も違う
- 出やすい差は、色の濃さ・シボの粗さ・縫い目のピッチ・指またの深さの4つ
- 並べたときにだけ分かる差、細かいしわや筋は、幅の中として扱っている
- 穴、裂け、縫い目の飛び、左右のサイズ違い、着けて痛みが出るものは不良として対応する
- カタログ写真はある1組を撮ったもの。代表であって平均ではない
- 左右差は裁断の向きが違うことから来る。性能を優先した結果である
- 迷ったら、二組を並べて斜めの光で撮った写真を添えてご連絡いただきたい
均一であることは、量産の世界では当たり前の前提です。私たちも普段はその世界で図面を引いています。ただ、天然の素材を人の手で仕立てる領域では、その前提のほうを持ち込めません。幅を隠して「同じです」と言うより、幅の中身を書いて、読んだ方が自分で判断できるようにするほうが誠実だと考えています。
もう一つだけ。届いた一組を「当たりか外れか」で見はじめると、どこまでいっても落ち着きません。同じ品番のどれとも違う、その一組の顔がある。そう受け取っていただけたら、使い込むほど深まる変化のほうを、素直に楽しんでいただけると思います。
FEATURED IN THIS ARTICLE
この記事で紹介した商品
関連記事








