同じ色を注文したのに、少し違う|アルマイトのロット差を正直に話す

半年前に買ったシフトノブが気に入って、今度は同じシリーズの小物を買い足しました。届いた箱を開けて、手元にある一本と並べてみる。そこで、あれ、と思う。単体で見れば何の問題もない色なのに、二つを触れるほど近づけて、同じ角度で光を当てると、わずかに違う。濃いのか薄いのか、赤みなのか青みなのか、言葉にしづらい差です。
離して置けば分かりません。写真に撮っても写りません。それでも、一度気づいてしまうとその差しか見えなくなる。不良品を掴まされたのだろうか、それとも自分が神経質なだけなのだろうか——この判断がつかないまま、問い合わせるかどうか迷っている方は、たぶん少なくないと思います。
この記事では、作っている側から正直に書きます。アルマイト(陽極酸化)がなぜ「塗る」処理と違うのか、同じレシピで処理しても発色が動く理由、色によって差の見えやすさがどう変わるのか、揃えたいときの現実的な手立て、そして私たちが不良として扱う線引きまで。結論から言えば、並べたときだけ分かる差は、大半が仕組み上そうなるものです。ただし「だから気にするな」で終わらせずに、幅の中身を説明します。
並べたときだけ分かる差は、なぜ起きるのか
先に全体像を言います。着色アルマイトの色は、塗料のように調合した液を塗って作るのではなく、化学反応の結果としてできあがります。反応である以上、条件がわずかに違えば結果もわずかに違う。この「わずか」は、単体で見れば分からず、並べると分かる程度の幅です。
量産車の外装でも、樹脂の部品と塗装した金属の部品を隣り合わせに付けると、同じ色名でも並べると差が出ます。あれをゼロにするために、量産では色の管理に膨大な手間をかけます。それでも、光の向きによっては差が見える。手間の量の問題ではなく、素材と工程が違えば色の出方が違う、という物理の問題だからです。
小ロットで作る私たちの場合、この幅は量産より大きくなります。理由は次の章から順に説明しますが、要点は一度に処理する数が少ないほど、ロットの数が増えるという単純な話です。ロットが増えれば、ロット間の差に出会う機会も増えます。
もう一つ、書いておきたいことがあります。この差に気づく方は、目が良いのではなく比べ方が正しいのです。二つを触れるほど近づけ、同じ光を同じ角度で当てて見る——これは、私たちが検査で使っている見方とまったく同じです。神経質だから見えているのではありません。見える条件を作れば、誰にでも見えます。
アルマイトは「塗る」ではなく「素地を変えて染める」
アルミは、空気に触れるだけで表面にごく薄い酸化の膜を作ります。アルマイト(陽極酸化)は、この自然にできる膜を、電気の力で意図的に厚く育てる処理です。電解液の中でアルミの部品をプラス側につないで電流を流すと、表面のアルミそのものが酸化アルミという別の物質に変わっていきます。
塗装との違いは決定的です。塗装は部品の上に塗料という別の物質を載せる。アルマイトは部品の表面そのものが変わる。だから剥がれません。そして、できた膜には細かい孔が無数に開いていて、着色するときはその孔に染料を染み込ませ、あとで孔を閉じて色を閉じ込めます。
ここが重要な点です。色は膜の中にあり、膜は素地から作られている。つまり、素地であるアルミの性質が発色に効きます。塗装なら、下地が多少違っても上に載せる塗料は同じなので、色は揃いやすい。アルマイトは下地が色の一部なので、素地が変われば色も動きます。仕組みそのものについてはアルミの色は褪せる?の記事で詳しく書きました。
ちなみにチタンの発色はまったく別の仕組みで、染料を使わず膜の厚みだけで色が出ます。こちらはこちらで厚みのわずかな差が色に直結するので、別の意味で難しい。興味のある方はチタンの焼き色はなぜ美しいのかもどうぞ。
同じレシピでも、発色は動く
では、何が発色を動かすのか。主な要因を並べます。
| 動く要因 | 何が変わるのか | 見え方への出方 |
|---|---|---|
| 電解液の温度 | 膜の育ち方と孔の細かさ | 染料の入り方が変わり、濃さが動く |
| 通電の時間 | 膜の厚み | 厚いほど染料を多く抱え、深い色になる |
| 染料の液の使用回数 | 染料の濃さ | 回を重ねるほど淡くなる方向へ |
| アルミの素材ロット | 合金に含まれる成分の割合 | 下地の白さが変わり、同じ染料でも印象が変わる |
| 前工程の研磨 | 表面の粗さ | 光の返し方が変わり、濃く見えたり浅く見えたり |
五つのうち、私たちが完全に管理できるのは通電の時間くらいです。温度は槽の中で場所によっても違いますし、素材ロットは仕入れのたびに変わります。研磨は人の手が入ります。つまり、同じレシピを守っても、条件は完全には同じにならない。これがロット差の正体です。
もう一つ、意外と大きいのが素材ロットです。アルミ合金は純アルミではなく、他の金属が少し混ざっています。その配合は規格の幅の中で動き、その幅の中の違いが、下地の白さの違いとして出る。白い下地に染めた青と、わずかに灰色寄りの下地に染めた青は、同じ染料でも別の色に見えます。塗装では起きにくく、アルマイトでは起きる。素地が色の一部だからです。
大きな槽で一度に処理するほうが揃う
量産の色が揃いやすい理由のひとつは、単純に一度に処理する数が多いことです。同じ槽、同じ温度、同じ時間、同じ染料の状態で数百点を通せば、その数百点の中では条件が共通します。数を絞って何度も回せば、回のたびに条件が少しずつ違う。技術の差ではなく、数の差です。
私たちは小ロットで作っているので、この点では不利な側にいます。有利な点もあって、一点ずつ人が見て色を確かめられる。どちらが良いという話ではなく、性格が違うということです。値段と生産数の関係の中で、この性格は変えられません。
黒はばらつきが見えにくく、赤や青は見えやすい
ここからは、買う側にとって実用的な話です。同じ幅のばらつきでも、色によって見え方の大きさがまるで違います。
黒は、差が最も隠れる色です。黒は光をほとんど返さないので、濃さがわずかに動いても、目に入る情報量が少ない。逆に、赤や青のように鮮やかな色は、彩度がわずかに動いただけで「濃い/浅い」が分かってしまいます。中間の色ほど、差が言葉にしやすくなります。
もう一つの軸が、面の艶です。艶のある面は光を鋭く返すので、色そのものより反射のほうが目立ち、結果として色差が紛れます。艶消しの面は色が素直に出るので、差もそのまま出ます。
色のアクセントが入る製品の例として、S16 カーボンボーイ レッド(¥5,800)を挙げます。素材はカーボンファイバーとアルミニウム合金、色はブラック/レッド、重さは155g、ノブ本体ネジは M18×P1.5。黒い本体に赤が差し込まれた構成で、赤の面積そのものは小さい。面積が小さいほど、差は気づかれにくくなります。全面が鮮やかな色の製品より、差し色として入っているほうが、並べたときの違和感は小さい。これは意図した設計というより、結果としてそうなっている性質です。
差し色を持たない構成が良ければ、同じ形で色をブラック/ブラックにまとめたS14 カーボンボーイ(¥5,800)があります。素材はカーボンファイバーとアルミニウム合金、重さ155g。買い足しを前提にするなら、こちらのほうが並べたときの心配は少なくなります。
異なる素材を組み合わせた製品では、また別の難しさがあります。S24 ツートンボール ブラック(¥5,800)は、素材がアルミニウム合金とPPプラスチック、色はブラック/シルバー、重量は90g。金属の黒と樹脂の黒は、まったく別の工程で色が付きます。同じ「黒」という言葉で呼んでいても、色の作り方が違う以上、完全に同じ黒にはなりません。ここは合わせ込みが要る部分で、標準サンプルを見ながら組み合わせを決めています。他の色や形はシフトノブの一覧でご覧いただけます。
揃えたいときの、現実的な方法
「差が出るのは分かった。それでも揃えたい」という要望はもっともです。現実的にできることを、効き目の大きい順に書きます。
- 同時に買う。これが圧倒的に効きます。同じ時期の注文は同じロットから出る可能性が高く、ロットが同じなら条件も同じです。買い足しの予定があるなら、最初にまとめてください。
- 並べて付けない。視線の中で二つが同時に入らなければ、差は事実上ありません。シフトノブとエクステンションのように必ず隣り合う組み合わせだけ同時に買い、離れた場所に付くものは気にしない、という割り切りは合理的です。
- 色を揃えるのではなく、素材で揃える。無着色のシルバーや、木、カーボンのように染料を使わないものは、ロット差の出方が別の性格になります。少なくとも「染料の濃さ」という要因は消えます。
- 黒でまとめる。前章の通りです。揃えたいという目的だけなら、黒が最も裏切りません。
逆に、あまり効かない方法も書いておきます。注文時に「前回と同じロットで」と指定していただいても、在庫が残っていなければ応えられません。小ロットで作っている以上、特定のロットを長く保持することはできない。ここは正直に、できないと書いておきます。
時間が経つと差はどうなるか
買った時期がずれた二本は、条件のばらつきに加えて、使われてきた時間の差も抱えています。先に付いていた一本は、その間ずっと光と手に触れてきた。染料は紫外線を長く浴びると少しずつ変化しますし、表面には手の油や汚れの膜も乗ります。ロット差だと思っていたものの一部は、経年の差であることがあるということです。
見分け方は簡単で、中性洗剤を薄めた水で古いほうを拭き、乾いた布で仕上げてからもう一度並べてみてください。それで差が縮むなら、原因は汚れです。研磨剤の入ったクリーナーやコンパウンドは使わないでください。膜を削れば、色ごと落ちます。
不良として扱う線引きを、こちらから明示します
基準を持たないと、問い合わせのたびに違う答えが出てしまいます。私たちの線引きは次の通りです。
- 幅の中として扱うもの:二つを触れるほど近づけ、同じ角度で光を当てて初めて分かる濃淡や色味の差。単体では気づかない差。
- 幅の中として扱うもの:製品の中で素材が違う部分どうしの、黒や銀のわずかな見え方の違い。
- 不良として扱うもの:一本の中で色がまだらになっている、部分的に染まっていない、あるいは色が流れたような跡がある。これは条件のばらつきではなく、処理そのものの失敗です。
- 不良として扱うもの:膜が付いていない箇所がある、指で触ると粉っぽいものが付く。封孔(孔を閉じる工程)が効いていない状態です。
境界にあるのは「離して置いても違うと分かる」ケースです。ここは写真をお送りいただいて、こちらで標準サンプルと突き合わせて判断します。写真は、二つを並べて、斜めから低い角度で光を当てて撮ってください。真正面のフラッシュ撮影では、差が消えて写ります。
まとめ
アルマイトのロット差について、覚えておいていただきたいのは次の点です。
- アルマイトは塗装ではなく、素地そのものを膜に変えて、その孔に染料を入れる処理
- 色は化学反応の結果なので、温度・時間・染料の使用回数・素材ロット・研磨で動く
- 同じレシピを守っても条件は完全には揃わない。小ロットほどロットの数が増え、差に出会う機会も増える
- 黒は差が隠れ、赤や青は差が出る。艶のある面ほど紛れ、面積が小さいほど気づかれにくい
- 揃えたいなら、同時に買うのが最も効く。次に、並べて付けない
- 並べたときだけ分かる差は幅の中。まだら・未染色・色流れ・粉っぽさは不良として対応する
- 迷ったら、二つを並べて斜め光で撮った写真を添えて連絡する
均一であることは、量産の世界では当たり前の前提です。ただ、表面処理は化学反応なので、その前提には必ず幅があります。幅を隠して「同じです」と言うより、幅の中身を書いて、読んだ方が自分で判断できるようにするほうが、私たちには誠実に思えます。
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