アルミの色は褪せる?|アルマイトの仕組みと、チタニウムブルーやブラックの経年を設計者が解説

届いた箱を開けて、青いシフトノブを取り出す。窓から入る光で、青の奥に金属の粒の細かい表情が見える。取り付けて、しばらく眺めて、それから少し不安になる。この青は、夏の駐車場で何年も日光を浴びて、そのまま残るのだろうか。黒いノブを選んだ人も同じで、爪が当たったら下から銀色が出てくるのではないか、と指先で確かめたくなる。
塗装の車で、屋根やボンネットの色が褪せていくのを見たことがある人ほど、この不安は大きいと思います。アルミのパーツに書かれている「アルマイト」という言葉が塗装の一種なのか、別の何かなのか。分からないまま、「褪せますか」と問い合わせるのも気が引ける。そんな人のために、作っている側から正直に書きます。
この記事では、量産車の外装アルミ部品の耐候試験(日光や雨を再現して色や表面の変化を確かめる試験)を見てきた立場から、アルマイト(陽極酸化)を「塗る」ではなく「表面そのものを変える」処理として言い換え、色がどこにあるのかを説明します。そのうえで、日光・熱・皮脂で起きることと起きないこと、傷が付いたときの見え方、シルバー(無着色)の強み、当店のアルミ部品の色展開と選び方までを順に整理します。
買った日の青は残るのか——アルミパーツの色への不安
先に結論を言えば、アルマイトの色は「塗装ほど簡単には褪せないが、永遠に不変でもない」です。曖昧に聞こえるかもしれませんが、この曖昧さには理由があり、その理由が分かると、自分の使い方でどのくらい持つかを自分で見積もれるようになります。
量産の現場で耐候試験を見ていると、色が変わる部品と変わらない部品の差は、色そのものより「色がどこにあるか」で決まっていました。表面の上に載っている色は、日光と雨に直接さらされます。表面の中に入っている色は、表面が守ってくれる。アルマイトは後者です。まずこの構造から説明します。
アルマイト(陽極酸化)とは何か:塗装ではなく表面そのものを変える処理
アルミは、空気に触れるとすぐに表面にごく薄い酸化の膜を作ります。この膜があるおかげで、アルミは鉄のように赤く錆びずに済んでいます。アルマイトは、この自然にできる膜を、電気の力で意図的に厚く育てる処理です。電解液(電気を通す液)の中でアルミの部品をプラス側につないで電流を流すと、表面のアルミが酸化アルミに変わっていきます。
ここが塗装との決定的な違いです。塗装は、部品の上に別の物質(塗料)を載せます。アルマイトは、部品の表面そのものが酸化アルミという別の物質に変わります。上に載せたものは剥がれますが、表面が変わったものは剥がれません。膜の厚みは処理の条件によりますが、髪の毛の太さよりずっと薄い、数μm(1μmは1mmの千分の一)から十数μmの世界です。薄いのに、酸化アルミは元のアルミよりはるかに硬い。だからアルマイトした部品は、素のアルミより傷に強くなります。
色はどこにあるのか:膜の中に染める、という仕組み
では、青や黒の色はどこから来るのか。アルマイトでできる酸化の膜には、表面に細かい孔(あな)が無数に開いています。着色アルマイトは、この孔に染料を染み込ませ、そのあとで孔を閉じる(封孔と呼びます)処理をして色を閉じ込めます。
| 処理 | 色のある場所 | 剥がれ方 | 傷が付いたとき |
|---|---|---|---|
| 塗装 | 部品の上に載った塗料の層 | 層ごと剥がれることがある | 塗料の下の素材が見える |
| 着色アルマイト | 表面の膜の孔の中 | 膜は剥がれない | 膜を貫く深さなら地金が見える |
| 無着色アルマイト | 色は付けない(地金の色) | 膜は剥がれない | 地金と同じ色なので目立ちにくい |
つまり色は「上に載っている」のではなく「膜の中に閉じ込められている」。これが、アルマイトの色が塗装より持つ理由であり、同時に、永遠ではない理由でもあります。染料は染料なので、染料が変化する条件では色も変化する。次の章で、その条件を具体的に挙げます。
ちなみに、チタンの青は仕組みがまったく違います。チタンの陽極酸化は染料を使わず、膜の厚みそのもので発色する「構造色」で、色素がないので褪せません。当店のS01 タートルネックボール(¥5,800)の色名は「チタニウムブルー」ですが、これはアルミにアルマイトで付けた青の色名で、素材はアルミ合金、重さは120g。チタンそのものではありません。チタンの発色に興味がある人はチタンの焼き色はなぜ美しいのかの記事を読んでみてください。同じ「陽極酸化」という言葉でも、アルミとチタンでは色の正体が違います。
日光・熱・皮脂で起きること、起きないこと
ここからが、問い合わせで最も多い部分です。条件ごとに、起きることと起きないことを分けて書きます。
日光
染料は、紫外線を長く浴びると少しずつ分解されます。これは着色アルマイトでも避けられません。ただし、シフトノブのような室内の部品は、ガラス越しの光しか浴びず、屋外の外装部品と比べれば紫外線の量ははるかに少ない。耐候試験で見てきた経験で言えば、色によって差があり、赤や紫の系統は光に弱く、黒と青は比較的持つ側です。当店のアルミのノブの色が黒と青とシルバーなのは、この事情も理由の一つです。とはいえ、炎天下の駐車場で何年も同じ角度で光を浴び続ければ、青は少しずつ浅くなる可能性があります。ここは「褪せない」とは書きません。
熱
室内で起きる温度では、酸化の膜そのものは変化しません。夏の車内でノブが熱くなっても、膜が傷むことはない。ただ、染料は高い温度で変化しやすくなるので、熱と光が重なる場所(直射日光の当たるダッシュボードの上など)は、シフトノブの位置より条件が厳しくなります。
皮脂と汚れ
手の油で色が変わることはありません。酸化の膜は化学的に安定しているので、皮脂はその上に載っているだけです。くすんで見えるときは、大半が油と汚れの膜です。中性洗剤を薄めた水で拭いてから乾いた布で仕上げれば、色は戻ります。逆に、研磨剤入りのクリーナーやコンパウンドは使わないでください。膜を削ると、色ごと落ちます。
整理すると、起きないことは、膜が剥がれること、皮脂で変色すること、室内の温度で膜が傷むこと。起きうることは、長年の紫外線で染料が少しずつ薄くなること、研磨で膜を落としてしまうことです。
傷が付いたときの見え方と、シルバー(無着色)の強み
酸化の膜は硬いので、爪や鍵が軽く当たった程度では傷になりにくい。ただし薄いので、鋭い金属で強くこすると膜を貫きます。膜を貫く深さの傷が付くと、下のアルミの地金が見えます。地金は銀色なので、黒や青のノブでは傷が銀色の線として目立ちます。
ここでシルバーの強みが出ます。シルバーは染料で色を付けていないので、傷が膜を貫いても、下から出てくるのは同じ銀色。傷の線は光の反射の違いとして見えるだけで、色の差としては見えません。長く使って小さな傷が増えていく部品ほど、この差は大きくなります。
黒は、その反対の性格です。S19 ズミノブ ブラック(¥5,800)は、無駄を削ぎ落としたスリムな形をブラックで仕上げたモデルで、素材はアルミ合金、重さは165g。黒は内装の黒い樹脂と溶け込み、形の輪郭だけが浮かぶ。傷が付けば銀色の線が出ますが、それを嫌う人と、使い込んだ跡として受け入れる人に分かれます。どちらが正しいということはありません。
シルバーで同じ形を持ちたい人には、S02 タートルネックボール シルバー(¥5,800)があります。ネック部分がボール状のトップへ滑らかにつながる形を、CNC加工のアルミ合金で作り、色を付けずに素材の色で見せたモデルです。青のタートルネックボールと形は同じなので、色だけを「褪せる心配を最小にする」側に振った選択と言えます。
当店のアルミ部品の色展開と選び方
当店のアルミ削り出しのシフトノブは、シルバー、ブラック、チタニウムブルーの3系統です。色の持ちという物差しだけで並べると、次のようになります。
| 色 | 色の正体 | 日光での変化 | 傷の見え方 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| シルバー | 地金の色(無着色) | 色が無いので褪せる対象が無い | 同じ銀色なので目立ちにくい | 長く使って傷を気にしたくない人 |
| ブラック | 膜の中の黒い染料 | 比較的持つ側。長年で僅かに変化の可能性 | 銀色の線として見える | 内装の黒に溶け込ませたい人 |
| チタニウムブルー | 膜の中の青い染料 | 比較的持つ側。長年で浅くなる可能性 | 銀色の線として見える | 一点だけ色を置きたい人 |
アルマイトは色のためだけの処理ではありません。P06 クーラントタンク(¥6,800)は、汎用のアルミ製クーラントタンクで、容量800ml、ジョイントサイズ10mm。内部にはアノダイック電解被膜(アルマイトの膜)が施され、外側はウレタン塗装で仕上げています。内側は液体に触れるので膜で守り、外側は見た目と保護のために塗装する。同じ部品の中で、アルマイトと塗装が役割を分けている例です。エンジンルームの部品を選ぶときも、「その色は上に載っているのか、表面の中にあるのか」という見方は同じように使えます。
素材の見た目と製法の関係を掘り下げた記事として、ドライ・ウェット・フォージドカーボンの違いも併せて読んでみてください。カーボンも「表面の樹脂の中に織り目がある」構造で、透明な層が紫外線で変化していく話は、アルマイトの染料とよく似ています。
よくある質問
チタニウムブルーは、チタンで作られているのですか?
いいえ、色の名前です。素材はアルミ合金で、アルマイトの膜の中に青い染料を染めています。チタンの陽極酸化による青は染料を使わない構造色で、仕組みがまったく違います。
青いノブは何年くらい色が持ちますか?
使い方と駐車環境で大きく変わるので、年数は書きません。室内の部品はガラス越しの光しか浴びないため、外装部品と比べれば条件はかなり穏やかです。炎天下に長年置く車ほど、青が少しずつ浅くなる可能性はあります。
くすんできたら、どう手入れすればよいですか?
中性洗剤を薄めた水で拭き、乾いた布で仕上げてください。大半のくすみは油と汚れなので、これで戻ります。研磨剤入りのクリーナーやコンパウンドは、膜ごと色を落とすので使わないでください。
傷が付いて銀色が見えてしまいました。直せますか?
膜を貫いた傷を、家庭で元に戻す方法はありません。周囲をさらに磨くと膜を広く落としてしまうので、触らないのが正解です。傷を気にしたくない人には、無着色のシルバーを勧めています。
まとめ
アルミの色への不安は、色がどこにあるかを知ると、自分で見積もれるようになります。
- アルマイトは塗装ではなく、表面そのものを硬い酸化の膜に変える処理。膜は剥がれない
- 色は膜の孔の中に染めた染料。上に載っているのではなく、中に閉じ込められている
- 起きないこと:膜の剥がれ、皮脂での変色、室内温度での膜の劣化
- 起きうること:長年の紫外線で染料が少しずつ薄くなる、研磨で膜を落とす
- 傷が膜を貫くと地金の銀色が見える。シルバーは同じ色なので目立ちにくい
- 手入れは中性洗剤と乾拭き。コンパウンドは使わない
買った日の青が気になる人は、まず駐車場で車がどの向きに何時間止まっているかを思い出してみてください。それが、自分の使い方での色の持ちを見積もる出発点です。当店のシフトノブ一覧には、この記事の3系統の色がそれぞれ並んでいます。褪せる心配を最小にしたいならシルバー、内装に溶け込ませたいならブラック、一点だけ色を置きたいならチタニウムブルー。色の正体を知ったうえで、選んでみてください。
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