キャッチタンクのホースをどう這わせるか|熱源から逃がす、潰さない、垂らさない

キャッチタンク本体の取り付けは、思ったより早く終わりました。ステーの位置が決まり、ボルトが入り、タンクがきちんと立った。ここまで三十分ほど。ところが、そこから先が終わりません。二本のホースを、どこをどう通せばいいのか。エンジンルームを覗き込んで、右へ回してみたり、左へ回してみたり、ボンネットを閉めては開けてを繰り返す。
気づけば、本体を付けた時間の何倍も、ホースの前で悩んでいます。しかも判断の根拠がない。最短距離で結ぶのが正しいのか、遠回りしてでも避けるべき場所があるのか。とりあえず届く経路で結んで、タイラップで留めて、その日は終わりにする。そういう終わり方をした方は、少なくないと思います。
この記事では、その悩む時間に判断の軸を入れます。ホースの経路を決めているのは、実は三つの条件——熱、振動、重力です。この三つを順番に当てはめれば、経路は自然に絞り込まれます。排気まわりからどれだけ離すか、曲げの限界をどう見るか、液が溜まる形をどう避けるか、固定で本当に守るべきものは何か。そして、取り付けた翌週にもう一度見に行くべき理由まで整理します。
タンクの位置より、ホースの経路で決まることが多い
まず、この部品が何をしているのかを短くおさらいします。キャッチタンクは、エンジンから出るブローバイガスを一度広い空間に通し、流れを遅くして、重い成分を壁と底に落とす部品です。仕組みの詳しい話はエンジンルームがうっすらオイルで滲むにまとめてあります。
ここで大事なのは、この部品が「流れの途中に挟まる部屋」だということです。部屋そのものの性能はもちろん効きますが、そこへ至る道と、そこから出ていく道が悪ければ、部屋は本来の仕事をしません。写真のタンクにも、ポートには「OUT」と刻まれています。入口と出口があり、その間を通る流れがある。経路は、部品の一部です。
ですから取り付けを考えるときは、順番を逆にしてみてください。「タンクをどこに置くか」を先に決めて、あとからホースを何とかしようとすると、たいてい無理が出ます。先に通したい経路を思い描き、その経路が素直に成り立つ場所にタンクを置く。設計の現場では、これを「配管を先に引く」と言います。
当店で扱っているタンクは二種類です。どちらもアダプターサイズは12mm、素材は精密加工されたビレットアルミニウムです。
| 品番・商品名 | 容量 | アダプターサイズ | 価格 |
|---|---|---|---|
| P03 オイルキャッチタンク 350ml | 350ml | 12mm | ¥4,800 |
| P04 オイルキャッチタンク | — | 12mm | ¥4,800 |
エキマニと排気まわりから、どれだけ離せるか
三つの条件のうち、最初に効くのが熱です。そして熱については、判断が単純です。排気系から離す。それだけ。
エンジンルームで最も温度が高くなるのは、燃焼したガスが最初に通る場所——排気マニホールド(エキマニ)とその周辺です。ここは、触れるどころか近づけるだけでも影響が出る温度になります。ゴム系のホースにとって、この熱は素材そのものを痛める原因です。硬くなり、ひび割れ、やがて割れます。
判断のしかたとしては、次の順で考えてください。
- まず、離せないかを考える。 経路を遠回りさせてでも距離を取るのが、いちばん確実で費用もかかりません
- 離せないなら、間に何かを挟めないかを考える。 遮熱の考え方はむき出しエアクリは熱を吸うに書いたとおりで、直接受けている放射熱を遮るだけでも条件は変わります
- どちらもできないなら、その経路をやめる。 無理を通した場所は、必ず後で問題になります
もうひとつ、意外に見落とされるのが停車直後の温度です。走行中は風が抜けているので、ぎりぎりの位置でも成立しているように見えます。ところがエンジンを止めた直後は風が止まり、熱がエンジンルーム全体に回ります。いちばん厳しい条件は、走っている最中ではなく止めた直後にやってきます。経路を決めるときは、この状態を想像してください。
曲げすぎた場所は、走っているうちに潰れる
次が形の話です。ホースには曲げられる限界があります。限界を超えて曲げると、断面が丸から楕円になり、やがて折れた状態になります。いわゆるキンクです。
厄介なのは、取り付けた直後には潰れて見えないことがある点です。新品のホースには弾力がありますから、少しきつい角度でも形を保ちます。ところが熱を受け、振動を受け、時間が経つうちに材料が変化していく。ある日ボンネットを開けたら、その場所だけ平たくなっている——という順番で進みます。
目安としては、次の三つを見てください。
| 見る場所 | 危ないサイン | 対処の方向 |
|---|---|---|
| ポートから出た直後 | すぐ真横や真下へ折り返している | いったん真っ直ぐ伸ばしてから曲げる |
| 部品の角をまたぐ場所 | 角に沿って鋭く曲がっている | 角から離し、緩い弧を描かせる |
| ボンネットを閉めたとき | 閉めると経路が押される | 閉めた状態で余裕があるか必ず確認 |
最後の行は、必ず確認してください。ボンネットを開けた状態で完璧に見える経路が、閉めた瞬間に潰れていることがあります。裏側の遮音材や骨に当たっているのです。確認の方法は簡単で、ホースの上に薄い紙などを軽く載せてからボンネットを閉め、また開けて跡が付いているかを見ます。跡が付いていれば、そこは当たっています。
下がって上がる経路をつくらない
三つめの条件、重力です。ここが最も見落とされます。
キャッチタンクの中を流れているのは、ガスだけではありません。オイルの霧と水分が混ざっています。この混ざりものは、ホースの途中でも冷えて液に戻ります。液に戻った以上、重力に従って低いほうへ落ちていきます。
ここで問題になるのが、いったん下がって、また上がる経路です。U字型に垂れ下がった場所があると、その底に液が溜まります。溜まった液は、次に流れてきたガスの通り道を狭めます。ひどい場合は、その場所が栓のようになってしまう。
ですから経路の原則はこうです。
- タンクに向かって、なるべく下り勾配を保つ。 途中で拾った液が、素直にタンクへ落ちていく形にします
- 垂れ下がる「たるみ」を作らない。 長さが余ったら、たるませるのではなく経路を見直して短くします
- 上がって下がる山も、できれば避ける。 山の頂点は、液は溜まりませんが流れの抵抗にはなります
ホースは短いほど良いのか
ここまで読むと、「では最短で結ぶのがいちばん良いのか」と思われるかもしれません。半分は正しいのですが、条件があります。
短い経路の利点は、抵抗が少ないこと、途中で冷える距離が短いこと、そして固定する箇所が減ることです。迷ったら短いほうが有利、という原則は成り立ちます。ただしそれは、熱源から離れていて、きつい曲げがなく、下り勾配が保てている場合の話です。
最短距離が排気系のすぐ脇を通るなら、遠回りのほうが正解です。短さは目的ではなく、他の条件を満たしたうえでの優先順位にすぎません。ここを取り違えて「最短で結んだのに調子が悪い」となる例を、実際によく見かけます。
キャッチタンクの底に液が溜まったときの読み方や、抜く作業の段取りについてはキャッチタンクに溜まった液を抜くにまとめてあります。経路が正しく組まれていれば、溜まるべきものはタンクに溜まります。逆に、ホースの途中に溜まっているぶんは、タンクの記録から抜け落ちていることになります。点検の精度という意味でも、経路は効いてきます。
固定は「揺れない」より「擦れない」を優先する
経路が決まったら固定です。ここで多くの方が、とにかくがっちり留めようとします。気持ちは分かりますが、優先順位は少し違います。
エンジンは動きます。回転しているだけでなく、加速や減速のたびにマウントの上で揺れます。エンジン側に付いた部品と、車体側に固定された部品では、この揺れ方が違う。その両方をまたぐホースは、必ず相対的に動きます。動きを完全に止めることはできません。
止められないのなら、次に考えるべきは動いた結果として何が起きるかです。答えは擦れです。ホースが金属の角や、他の配管、ハーネスの束と触れていれば、動くたびにそこが削れます。ゴムのホースは硬いものに対しては弱い側なので、削られるのはホースのほうです。穴が開くまでの時間は、走行距離が稼いでいきます。
ですから固定の考え方は次のようになります。
- 接触しているところを先に探す。 経路をなぞって、他の部品と触れている点をすべて見つける
- 触れないように経路をずらす。 固定で押さえるより、そもそも離すほうが確実です
- 離せない接触には、当たり止めを挟む。 ホース側を保護する形にします
- そのうえで、要所を留める。 留めるのは経路を保つためであって、動きを封じるためではありません
タイラップで留めるときも、締め込みすぎないでください。強く締めれば、そこだけホースが細くなります。細くなった場所は、前の章で書いた潰れと同じことが起きている状態です。ホースが軽く回せる程度で十分に役目を果たします。ラインアップはパフォーマンスのコレクションにまとめています。
取り付けた翌週に、もう一度見に行く
最後に、いちばん大事なことを書きます。取り付けた日は、まだ確認が終わっていません。
量産車の開発でも、配管や配線を通したあとには必ず耐久の試験が入ります。理由は単純で、取り付け直後の状態と、しばらく使ったあとの状態が違うからです。ホースは熱を受けて落ち着き、固定は馴染み、経路はわずかに動いた場所で安定します。この「落ち着いたあと」を見ないと、本当に成立しているかは分かりません。
個人の車でも、同じことができます。取り付けて一週間、あるいは何度か走ったあとに、もう一度ボンネットを開けてください。エンジンが冷えていることを確認したうえで、次を見ます。
- 経路が動いていないか。 取り付けた日の位置から、ずれた場所はないか
- 擦れの跡がないか。 ホースの表面に、光沢の変わった部分や削れた筋がないか
- 潰れていないか。 曲げのきつい場所の断面が、丸いままか
- 留め具が緩んでいないか。 タイラップが移動していれば、そこは動いています
- 接続部から滲みがないか。 ポートまわりに濡れた跡がないか
この一回の確認で、初日には見えなかったことがだいたい出てきます。そして出てきたものを直せば、そのあとは長く安定します。逆に、この一回を飛ばすと、次に気づくのはトラブルが起きたときです。
作業中に判断できないこと——裏側が見えない、外し方が分からない、当たっているかどうか確信が持てない——があれば、そこで止めて整備工場に相談してください。エンジンルームは、無理を通した部分がいちばん厳しく返ってくる場所です。
まとめ:経路は、熱・振動・重力の順で決める
ホースの取り回しは見えない仕事です。仕上がったあとで褒められることもありません。それでも、この部品が働くかどうかはここで決まります。
- タンクの位置より先に、通したい経路を思い描く
- 排気系から離す。離せないなら遮る。どちらもできないならその経路をやめる
- 止めた直後にいちばん熱くなる、という前提で経路を見る
- 曲げのきつい場所を作らない。ポートから出た直後は一度真っ直ぐ伸ばす
- ボンネットを閉めた状態で余裕があるかを、必ず確認する
- タンクへ向かう下り勾配を保ち、垂れ下がるたるみを作らない
- 固定より先に、他の部品と触れている点を探して離す
- タイラップは締め込みすぎない。細くなった場所は潰れと同じ
- 取り付けて一週間後、エンジンが冷えた状態でもう一度見に行く
三つの条件——熱、振動、重力。この順で当てはめていくと、迷っていた経路は驚くほど早く決まります。悩んでいたのは選択肢が多かったからではなく、絞り込む軸がなかったからです。
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