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1台を身長差のある2人で乗る|手の届き方が違う運転席の落としどころ

2026年5月20日 / 約11分

S13 ホワイトボールエクステンション 運転席のシフトレバーに取り付けたオフホワイトの球とアルミの延長部

朝、自分が乗ろうとして運転席のドアを開けると、シートがずいぶん前に出ています。昨夜、奥さんが買い物に使ったからです。レバーを引いてシートを後ろへ滑らせ、背もたれの角度を戻し、ミラーを直す。ここまでは30秒で終わります。ところが走り出して2速へ入れた瞬間に、手が思っていたより遠いところにある。シートは自分の位置に戻したのに、手元だけが、なぜかしっくりこない。

1台を身長差のある2人で共有していると、この感覚に週に何度も出会います。私たちPlus Alpha Designsは、大手自動車メーカーで量産車の内外装を手掛けてきたカーデザイナー3名でパーツを作っています。量産車の運転席は、そもそも「体格の違う人が同じ席を使う」ことを前提に設計されます。設計の条件として、大柄な人の上位5パーセントと、小柄な人の下位5パーセント——95パーセンタイルと5パーセンタイルと呼びます——その両方が無理なく操作できること、という線が引かれる。つまりメーカーは、あなたの家で起きていることと同じ調停を、何十年も前からやっているわけです。

この記事では、身長差があると手元で何が変わるのかを、距離ではなく角度の話として説明します。そのうえで、2人の中間に置くのか、よく乗る側に寄せるのかという選択の考え方。工具なしで高さを切り替えられる形という現実的な解。そして、もう一人が触らない部品はどこまで寄せていいのか、最後に家庭内で決めておくべきことを順に書きます。

シートを動かすと、手元だけが取り残される

まず、何が起きているのかを整理します。

運転席で位置を調整できるものは、実はそう多くありません。シートの前後、背もたれの角度、高さ、それにステアリングのチルトとテレスコピック。車によってはこれで全部です。そして、これらを動かすと、体の位置は変わりますが、シフトノブの位置は1mmも動きません。ノブはフロアに生えたレバーの先に付いていて、シートとは別の世界に立っているからです。

だから、シートを後ろへ下げた人にとって、ノブは遠くなります。前へ出した人にとっては、近くなります。ここまでは当たり前の話です。問題は、遠い近いだけでは説明しきれない不快さが残ることのほうです。

量産の設計では、運転席の操作部を検討するときに「到達域」という考え方を使います。シートに座った状態で、背中を背もたれから離さずに手が届く範囲のことです。この範囲は球のような形をしていて、真ん中あたりがいちばん楽で、縁に近づくほど無理が出ます。シートを下げると、ノブはこの球のなかで縁のほうへ移動する。届いてはいるけれど、届かせるために肩が動く。これが「しっくりこない」の中身です。

どこにずれが出るかを、部位ごとに並べておきます。

部位身長差で起きるずれ折り合いの付け方
シート前後各自で毎回調整する調整できるので問題にならない
ステアリングチルト・テレスコで吸収できる調整できるので問題にならない
シフトノブの高さ動かせないので、片方に必ず無理が出る中間に置くか、切り替えられる形にする
方向指示レバー小柄な側で、握ったまま指が届きにくい延長すると、両方に効くことが多い
ペダルまでの距離シートで吸収する調整できるので問題にならない

表を見ていただくと分かるとおり、調整できるものは、そもそも揉めません。揉めるのは、動かせない場所だけです。

身長差で変わるのは距離ではなく、腕の角度

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい考え方です。

身長が10cm違えば、シートの位置も10cm近く違います。けれど、手元の使い心地を決めているのは、その10cmという距離そのものではありません。腕がどんな角度でノブに届いているか、のほうです。

楽な操作というのは、肘が体の横あたりに落ちていて、前腕をわずかに前へ出すだけで手がノブに乗る状態を指します。この姿勢だと、シフト操作は肘から先の仕事で済みます。シートを下げて距離が増えると、肘が体から離れて前へ出る。すると、シフトのたびに肩が動きます。肩を動かす操作は、腕を動かす操作より疲れますし、背中が背もたれから浮きやすい。長距離になるほど、この差は効いてきます。

逆に、シートを前へ出しすぎている側では、別の不都合が出ます。肘が曲がりすぎて、脇が締まりすぎる。手首でノブを押し引きすることになり、ゲートに入れる感触が読みにくくなります。

つまり、身長差のある2人が困っているのは、同じ「遠い・近い」ではなく、それぞれ別の角度の問題です。だから「真ん中を取れば両方が少しずつ我慢する」という発想が、必ずしも正解になりません。ここを最初に押さえておくと、次の判断がしやすくなります。手の大きさによる握り心地の違いはシフトノブの直径が手に合わないにまとめました。

2人の中間に置くのか、よく乗る側に寄せるのか

では、どう決めるか。判断の材料を3つ挙げます。

ひとつめは、乗る頻度です。片方が週5日で通勤に使い、もう片方が月に2回の買い物にだけ使うなら、寄せる先ははっきりしています。量産車の設計でも、条件がぶつかったときは「その操作をいちばん多く行う人」を優先します。全員に平等な位置というのは、たいてい誰にとっても最適ではない位置になるからです。

ふたつめは、我慢の質です。遠すぎて肩が動くのと、近すぎて脇が締まるのとでは、疲れ方が違います。長い時間乗るほうが遠すぎる側にいるなら、そちらを優先したほうが総量としての疲れは減ります。

この判断で意外と見落とされるのが、助手席に座る側の視点です。自分が運転していない日でも、隣に座っていれば運転席の様子は目に入ります。相手が毎回きつそうにシフトしているのを横で見続けるのは、それはそれで気持ちのいいものではありません。快適さの合計を考えるなら、乗っていない側の落ち着かなさも、そこそこ大きな重みを持ちます。

みっつめは、切り替えの手間を許せるかどうかです。もし工具なしで、1分以内に高さを変えられるなら、そもそも中間を取る必要がありません。ここが次の章の話になります。

S13 ホワイトボールエクステンション 全長130mmで組んだオフホワイトの球とアルミの延長部

先に結論めいたことを書いておくと、いきなり答えを決めなくて構いません。まず長いほうで数日走ってみて、遠いと感じるほうの人がどれだけ不満を言うかを見る。それから短いほうへ組み替えて、また数日走る。この往復ができる形を選んでおけば、家のなかで議論する必要そのものが小さくなります。

高さを2択にできる形なら、工具なしで切り替えられる

S13 ホワイトボールエクステンション(¥7,800)は、130mm(フル装着時)と90mm(上部パーツ単体)の2段階で全長を調整できるモジュラー構造のシフトノブです。素材はアルミニウム合金とサンダルウッド(白檀)、色はオフホワイト(クリーム)、重さは130g。下側の延長部を外して上部パーツだけにすると、全長が90mmになります。

この形の利点は、切り替えが「部品を替える」ではなく「一段抜く」で済むところです。工具は要りません。長いほうで乗る人と、短いほうで乗る人が交代するとき、それぞれ1分もかかりません。私たちがこの構造を作ったのは、そもそも「試してから決めたい」という要望に応えるためでしたが、実際には共有している車での使い方が多いと聞きます。2つの長さの考え方はシフトノブの高さは2択で試すのが早いで詳しく書きました。

S12 ダイノボール エクステンション 上部パーツと下側の延長部に分けた状態のシフトノブ

同じ構造で色の違うものもあります。S12 ダイノボール エクステンション(¥7,800)は、130mm/90mmの2段階、素材はアルミニウム合金とサンダルウッド(白檀)、色は茶、重さは130g。写真のように上部パーツと延長部が分かれる構造なので、外した側は手のひらに載る大きさです。グローブボックスに置いておいても邪魔になりません。

ひとつ正直に書いておくと、毎回組み替えるのは、慣れるまでは面倒に感じます。3日に1回ならやりますが、毎日2往復するとなると続きません。そういう場合は、頻度の多いほうに固定して、もう一方が「たまに乗る日は少し我慢する」ほうが現実的です。切り替えられるという選択肢があること自体が価値で、毎回使う必要はありません。

もう一人が触らない部品は、遠慮なく寄せてよい

共有の車をカスタムするとき、多くの方が全体に遠慮します。けれど、全部に遠慮する必要はありません。線を引けるところがあります。

基準は単純で、「もう一人の操作の邪魔になるか」です。シフトノブの高さは、両方が毎回触るので調停が要ります。一方、たとえば運転席側だけに効く装備で、もう一人が触れても不都合がないものなら、自分に合わせて構いません。

ここでひとつ、両方に効きやすい部品を挙げておきます。A05 方向指示レバー エクステンション(¥4,800)は、方向指示レバーを延長するアダプターです。素材はドライカーボンレバーとアルミ製レバーで、サイズはボルトにより可変式。アルミレバーとCNCドライカーボンレバーの2本が付属し、好みに合わせて取り付けられます。傷つき防止の取付用両面テープスポンジも付属します。

方向指示レバーは、ステアリングを握ったまま指を伸ばして操作します。ここは腕の長さとステアリングの位置の関係で決まるので、小柄な側で「握り替えないと届かない」ことが起きやすい。レバーが手前に来れば、その人は握り替えずに済みます。そして大柄な側にとっては、少し近くなるだけで邪魔にはならないことがほとんどです。つまり、シフトノブと違って中間解が成立しやすい部位です。

ただし、ひとつだけ注意があります。方向指示レバーは運転に直結する操作部です。延長すれば操作の感触は必ず変わりますから、取り付けたあとは、まず人通りのない場所で何度か操作して、手が迷わないことを確かめてください。そして共有している車なら、もう一人にも同じ確認をしてもらう。自分が慣れたからといって、相手も同じように使えるとは限りません。ステアリングまわりの部品はステアリングホイールの一覧にまとめてあります。

逆に言えば、中間解が成立しない部位を見極めることが、共有する車のカスタムのコツになります。全部に遠慮すると何も変えられませんし、全部を自分に寄せると相手が乗れなくなる。この線引きは、家族が自分の車を運転する日の話として家族が自分の車を運転する日にも書きました。

譲れない線を、先に言葉にしておく

最後は、部品ではなく話し合いの話です。

量産車の設計では、条件がぶつかったときに必ず「何を優先するか」を先に文章にします。あとから揉めないためです。家庭内の1台でも、同じことをしておくと後が楽になります。

決めておくとよいのは、たとえばこんなことです。日常の通勤で使うのはどちらか。長距離を運転することが多いのはどちらか。相手が乗る日は、元に戻すのか、戻さないのか。戻すなら、誰が戻すのか。純正部品はどこに保管しておくのか。どれも当たり前のことですが、口に出しておかないと、「勝手に変えられた」という感情のほうが先に立ちます。

私たちの経験でも、共有の車で長く続いているのは、部品が優れているケースより、この取り決めが最初にできているケースです。カスタムパーツは、家庭内の合意を代わりに作ってはくれません。逆に言えば、合意さえあれば、選べる形はいくらでもあります。シフトノブの一覧から、2人で写真を見ながら決めるのがいちばん早いかもしれません。

まとめ:2人で1台を使うときの決め方

順番に並べておきます。次に一緒に乗る機会があれば、その場で試せます。

身長差のある2人が1台を使うというのは、量産車の設計者が毎回向き合っている問題を、家庭内で小さくやり直すことです。答えは「真ん中」だけではありません。切り替えられる形を選ぶ、頻度で寄せる、中間解の成立する部位から手を付ける。選択肢が3つあると分かるだけで、運転席の話し合いはずいぶん静かになります。

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