左ハンドルのMTで、右手が空く|利き手が変わる運転席の作り方

納車の日、ディーラーの駐車場から本線に出るまでの数百メートルで、もう分かってしまいました。1速から2速へ。頭では分かっているのに、手が迷う。10年間、左手が勝手にやっていた動きが、右手ではまるで出てこないのです。信号が青に変わるたび、シフトのことを考えている自分がいる。
左ハンドルのMT車に乗り換えると、たいていの方がここでつまずきます。そして多くの場合、「慣れの問題だから、そのうち解決する」と言われて終わります。半分は当たっています。ただ、もう半分は違う。操作する手が変わるということは、身体の使い方が変わるということです。運転席の側を何も変えないまま慣れを待つと、いつまでも馴染まない部分が残ることがあります。
この記事では、左ハンドル車のシフト操作を「輸入部品が付くかどうか」ではなく、「どちらの手で操作するか」という身体の側の問題として扱います。利き手でシフトすると何が変わるのか、自分の握り方をどう観察するか、形と高さをどう選び直すか、グローブの消耗が左右で変わること、そして馴染むまでの期間と、期間を過ぎても直らないときの判断まで。順に見ていきます。
利き手でシフトすると、力は出るが、制御が過剰になる
日本で右ハンドル車に乗ってきた方の多くは、右利きです。つまり右ハンドル車では、利き手ではないほうの手でシフトしてきたことになります。それが左ハンドル車では逆転し、利き手でシフトすることになります。
ここで起きることを、設計の現場での観察としてお話しします。利き手は、細かい作業に向いています。文字を書き、箸を使い、細い部品をつまむ。そのため、動かす量と力を細かく調整しようとする癖がついています。一方の非利き手は、そこまで器用ではないぶん、大づかみに、決まった動きを繰り返すことに向いている。
シフト操作は、実は後者に近い作業です。ゲートに沿って決まった経路をなぞるだけで、指先の細かい調整はほとんど要りません。むしろ調整しようとすると、レバーがゲートに当たる寸前で減速したり、必要以上に慎重になったりします。「力は出るのに、なぜかぎこちない」という感覚の正体は、たいていこれです。
これは能力の問題ではありません。器用な手が、器用さを発揮する必要のない場面で働いてしまっているだけです。ですから対処も、練習量を増やすことではなく、手が細かく考えなくて済むようにする方向になります。
量産の操作系の設計でも、同じ考え方をします。操作部品の役目は、正しい動きへ手を導くことです。ゲートの形も、レバーの節度も、ノブの形も、迷いを減らすためにあります。裏を返せば、手が迷っているときは、部品の側に手掛かりが足りていない可能性がある、ということです。「自分の慣れが足りない」と片付ける前に、握っているものの形をもう一度見てみる価値はあります。
まず、自分がどう握っているかを観察する
手を変える前に、自分の握り方を知っておいてください。エンジンをかけず、停めたままで構いません。いつものようにノブへ手を伸ばし、そのまま動きを止めて、手を見てください。
大きく分けて二つあります。ひとつは包む握り。手のひら全体がノブに乗り、指が回り込んでいる形です。もうひとつはつまむ握り。親指と人差し指、中指のあたりでノブの上部をつまみ、手のひらは浮いている形です。
面白いのは、左右で握り方が違う方が珍しくないということです。左手では包んでいたのに、右手にすると自然につまむ形になる。あるいはその逆。左右の手は同じ形をしていますが、使ってきた歴史が違うので、癖も違います。ここを確かめずに「前の車と同じノブを付ければいい」と考えると、合わないことがあります。握り方と形の関係は握り方で選ぶシフトノブの形で詳しく扱っています。
形を選び直す——包む握りと、つまむ握りで合う形が違う
握り方が変わったなら、形も選び直す価値があります。目安を表にします。
| 握り方 | 手のどこで押しているか | 合いやすい形 |
|---|---|---|
| 包む握り | 手のひら全体と、指の付け根 | 丸みがあり、手のひらに面で当たる形 |
| つまむ握り | 親指と、人差し指・中指の腹 | 上部に指を掛けやすい段差や首のある形 |
| その中間 | 場面によって変わる | 握る位置を選べる、長さのある形 |
いちばん下の「中間」に当てはまる方は、実は多いはずです。街乗りでは軽くつまみ、飛ばすときは深く握る。そういう使い分けをしているなら、握る位置に幅のある形が向いています。
当店のS10 サンダルウッドボールエクステンション(茶)(¥7,800)は、この考え方に沿った製品です。素材はアルミニウム合金とサンダルウッド(白檀)、色は赤みのある茶、重さは130g。特徴は全長を2段階に変えられるモジュラー構造で、フル装着時が130mm、上部パーツ単体では90mmになります。つまり、長さを一度買って決めきる必要がありません。手が変わったばかりで判断がつかない時期に、これは効きます。ノブ本体のネジはM18×P1.5、付属アダプターでM8×P1.25/M10×P1.25/M10×P1.50/M12×P1.25の4種に対応します。ほかの形はシフトノブのコレクションにあります。
木の部分があることにも意味があります。金属だけのノブに比べ、握ったときの温度の伝わり方が穏やかです。手が新しい動きを覚えている最中は、余計な刺激が少ないほうが集中しやすい。細かいようですが、馴染む速さに関わります。
もうひとつ、長さを変えられることの実利を書いておきます。乗り換えの直後は、そもそも自分に何が合うのかが分かりません。短いほうと長いほう、両方を一週間ずつ試して比べられるというのは、この時期にはかなり大きな利点です。買い直しをせずに済みますし、比べたことがあるという経験自体が、次の判断の材料になります。決めきれないうちに一つの寸法へ固定してしまうより、結果として近道になることが多いと思います。
高さを見直す——ハンドル位置が変われば、腕の下ろし方も変わる
見落とされがちなのが高さです。ハンドルが車体の反対側に移ると、シフトレバーとの位置関係が変わります。右ハンドル車では左腕を身体の内側へ入れるように動かしていたのが、左ハンドル車では右腕を同じように動かすことになる。腕の付け根から見た角度も、肘の曲がり方も違います。
そのため、前の車でちょうど良かった高さが、そのまま合うとは限りません。高さは、前の車の設定を引き継ぐのではなく、いまの姿勢で決め直してください。
手順は簡単です。シートに座り、シートベルトを締めた状態で、腕をだらんと下ろします。そこから力を抜いたまま手をレバーへ持っていく。肩が前に出たり、上半身が傾いたりするなら、位置が遠いか低いかのどちらかです。逆に、肘が窮屈に折れているなら高すぎます。なお、位置が決まらないうちは空いた手をノブに預けてしまいがちで、その手の重さがレバーのどこへ流れるかはシフトノブに手を置きっぱなしにする癖にまとめました。
足りない分を埋めるなら、エクステンションという手があります。E02 ペアーエクステンション(¥4,800)は機械加工アルミニウムと耐久性のあるPPプラスチックで作られた延長部品です。延長側のネジサイズはM18×1.5ピッチ、車両への取り付けは内蔵の六角ネジで固定し、シフトレバー径は8/10/12mmに対応します。当店のシフトノブ本体のネジがM18×P1.5ですので、組み合わせて使えます。ラインアップはエクステンションのコレクションにまとめています。
なお、左ハンドルのMT車は輸入車であることが多く、その場合は運転席まわりの寸法の考え方も国産車と違います。欧州製MTホットハッチの運転席もあわせてご覧ください。
グローブの左右で、消耗が変わることに気づく
しばらく乗っていると、グローブを見て気づくことがあります。左右で、傷み方が違うのです。
当たり前といえば当たり前で、シフトを握る側の手だけが、ノブとの摩擦を受け続けています。右ハンドル車で使っていたときと、左ハンドル車で使うときとでは、先に痩せる側が入れ替わるわけです。長く使ってきたグローブほど、この差は目に見えます。
これは困りごとに聞こえますが、実は良い指標になります。グローブの摩耗の位置は、自分がノブのどこを押しているかの記録です。手のひらの付け根が擦れているなら包む握り、指の腹だけが光っているならつまむ握り。自分の申告より正確です。ノブの形で迷ったら、まずグローブを見てください。
買い替えを考えるなら、G12 ツートンレーシンググローブ(ブリティッシュブラウン)(¥8,800)のような、木や革の色と合わせやすい茶系という選び方もあります。天然シープスキン(羊革)のハーフフィンガー(半指)で、サイズはSmall・Medium・Largeの3展開。手囲い(手のひらのいちばん広い部分を、親指を除いて一周した寸法)はSが20.5〜21.5cm、Mが21.5〜22.5cm、Lが22.5〜23.5cmです。やや大きめの作りですので、ぴったりを求める方はワンサイズ下をお選びください。ほかの色や仕様も揃えています。
馴染むまでの期間と、期間を過ぎても直らないときの判断
最後に、時間の話をします。よく聞かれるのが「どのくらいで慣れますか」という質問です。個人差が大きいので日数では申し上げられませんが、判断の仕方ならお伝えできます。
目安は、「考えなくても入るようになったか」です。信号待ちから発進するとき、シフトのことを考えているうちは、まだ手が動きを覚えていません。逆に、会話をしながら、あるいは考えごとをしながらでも正しいギアに入るようになったら、そこは越えています。
そして重要なのはここからです。十分に乗っても、特定の操作だけが毎回ぎこちないなら、それは慣れの問題ではありません。寸法か形が合っていない可能性があります。見分け方は単純で、全体がぎこちないなら慣れ、一か所だけがぎこちないなら適合です。
| 起きていること | 考えられる原因 | 次にやること |
|---|---|---|
| 全体的にまだ迷う | 手が動きを覚えている途中 | 部品は替えず、もう少し乗る |
| 特定のギアだけ毎回引っかかる | その方向で腕が伸びきる、または窮屈 | 高さと座り方を見直す |
| 手のひらの一か所だけが疲れる | 形が握り方に合っていない | 形を選び直す |
| 握る力が抜けない | 滑る、または位置が遠い | グローブと高さを確認する |
ノブの太さと手の大きさの関係についてはシフトノブの太さと手の大きさにまとめてあります。あわせてご覧ください。
まとめ:手が変わったときに確かめること
左ハンドル車への乗り換えは、部品の適合の話である前に、身体の話です。操作する手が変われば、合う形も高さも変わって当然です。
- 利き手でのシフトは、力は出るが細かく調整しようとしてぎこちなくなりやすい
- 対処は練習量を増やすことではなく、手が細かく考えなくて済むようにすること
- 停めた状態で自分の握り方を観察する。包む握りか、つまむ握りか
- 左右で握り方が違うことは珍しくない。前の車と同じ形が合うとは限らない
- 高さは前の車から引き継がず、いまの姿勢で決め直す
- 腕をだらんと下ろした位置から手を伸ばし、肩が出ないか、肘が窮屈でないかを見る
- 長さの判断がつかない時期は、長さを変えられる構造の製品が安全
- グローブの摩耗の位置が、自分の握り方の記録になる
- 全体がぎこちないなら慣れ、一か所だけがぎこちないなら寸法か形
- ネジ径はメーカーでは決まらない。純正ノブを外してレバー側の外径を実測する(M8≒8mm/M10≒10mm/M12≒12mm)
次に運転するとき、走り出す前に一度だけ、右手をノブに置いてみてください。指がどこに当たっているか、手のひらが浮いているか。前の車で覚えた答えは、いったん置いておく。手が変わったのですから、答えも変わっていて構いません。
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