むき出しエアクリで吸気音が大きくなる|同乗者と、住宅街の朝

取り付けた翌朝のことです。エンジンをかけた瞬間、これまで聞こえなかった音が耳に入ってきました。アクセルを踏むと、右足の動きに合わせて空気が吸い込まれていく音が、ダッシュボードの向こうから直接届きます。信号が青に変わるたび、少しだけ口元が緩む。しばらくは、そのために遠回りして帰っていました。
ところが週末、助手席に人を乗せて出かけたときのことです。会話の途中で二度、聞き返されました。こちらは普通に話しているつもりでしたが、相手には届いていなかったらしい。そして翌週の月曜、朝六時に家を出る日。エンジンをかけて路地を抜けるまでの二十秒間、窓を閉めていてもはっきり聞こえるこの音が、外にはどのくらい漏れているのだろうと、初めて考えました。検索すると「音は正義」と書いてある投稿と「近所迷惑」と書いてある投稿が同じくらい並んでいて、どちらも自分の住んでいる場所の話ではありませんでした。
この記事では、むき出しのエアフィルターにしたときに増える音について整理します。純正の箱が音に対して何をしていたのか、吸気音と排気音の違い、運転席と助手席で聞こえ方が変わる理由、早朝の住宅街でいちばん響く回転域、遮熱シールドが音に対して持つ副次的な効果、そして「戻せる状態」を保っておくという考え方。順に見ていきます。
純正の箱は、空気の通り道であると同時に消音器
まず、外した箱が何をしていたのかを確認させてください。純正のエアクリーナーボックスは、フィルターを収める容器であると同時に、音を減らすための装置でもあります。
量産車の吸気系を設計するとき、私たちが引く線は最短距離ではありません。フェンダーの内側から一度上に回り、途中で断面を広げ、また絞り、途中に袋小路のような部屋をぶら下げる。この回りくどい形には理由があります。空気が管の中を流れるとき、断面積が急に変わる場所で音の波は一部が跳ね返ります。行き止まりの部屋は特定の高さの音を打ち消すために付けられていて、これをレゾネーター(共鳴室)と呼びます。つまり、あの箱とダクトの形は、性能のためではなく静けさのために遠回りしている部分をかなり含んでいるのです。
むき出しのフィルターにするということは、この遠回りを全部やめるということです。当店のP02 エアーフィルター 76mmφ(¥8,800)は、吸気抵抗を最適化した高効率フィルター構造で、およそ5〜10%の出力向上と、アクセル操作に対するより直接的な反応を狙った部品です。空気の通り道を短く、まっすぐにする。狙いはそこにあります。
そして、通り道を短くまっすぐにすれば、音も短くまっすぐ出てきます。音が増えるのは副作用ではなく、狙った構造変更の必然的な結果です。ここを「思ったより音が出た」と受け取るか「そういう部品だ」と受け取るかで、その後の付き合い方が変わります。
吸気音と排気音は、別の場所から出ている
「音が大きくなった」と一言で言ってしまうと、対策の打ちようがありません。まず切り分けが必要です。車から出ている音は、大きく分けて出所が違います。
| 音の種類 | 主な出所 | 大きくなる場面 | 車外への出方 |
|---|---|---|---|
| 吸気音 | ボンネットの下、車体前方寄り | アクセルを開けた瞬間、負荷がかかったとき | ボンネットの隙間やバンパー開口から前方へ |
| 排気音 | 車体後方のマフラー出口 | 回転数が上がったとき、アクセルを戻したとき | 後方および路面への反射で全方位へ |
| 機械の作動音 | エンジン本体、補機類 | 冷間時、アイドリング時 | ボンネット下から全体的に |
実際に聞き分けるのは難しくありません。吸気音は、アクセルの踏み込みに対してほぼ遅れずに付いてきます。回転数が同じでも、アクセルを大きく開けているときのほうが大きい。逆に排気音は回転数に素直に付いてくるので、アクセルを戻して回転が落ちていく間にも鳴り続けます。停車したまま少しだけアクセルを煽ってみて、前方から来る音が増えていれば吸気側です。
この切り分けが要る理由は単純で、対策する場所が違うからです。吸気音が気になっているのにマフラーを検討しても意味がありませんし、その逆もまた同じです。夜中に自宅の駐車場で、窓を開けて外に立って、誰かに一度エンジンをかけてもらう。それだけで、自分の車がどちらの音を出しているかは分かります。
運転席で心地よい音量が、助手席では別の話
ここが、いちばん見落とされる点です。運転席で聞いている音と、助手席で聞いている音は、同じ音ではありません。
理由は三つあります。ひとつめは位置。吸気口は車体の中心にあるとは限らず、たいていは左右どちらかに寄っています。近い側の席のほうが当然よく聞こえます。ふたつめは操作しているかどうか。運転者は自分でアクセルを踏んでいるので、音が出る0.1秒前に音を予測しています。予測できている音は、脳の中で小さく処理されます。同乗者には予測ができません。予測できない音は、同じ音量でも大きく感じます。これは量産車の官能評価でも必ず出てくる話で、開発ドライバーが気にしない音を後席の評価者が指摘する、ということが実際に起こります。
三つめは会話との重なりです。人の声が主に使っている高さの帯域と、吸気音が出す帯域は一部が重なります。重なると、音量そのものが同じでも声が埋もれます。「うるさい」より先に出てくる症状が「聞き返しが増える」なのは、このためです。二度聞き返されたら、それは音量の合図だと考えてよいと思います。
対策として現実的なのは、音を消すことではなく運転を変えることです。人を乗せている区間では、アクセルの開け方を小さく、回転を上げすぎない。同乗者がいる場面での考え方は家族が自分の車を運転する日にも書きましたが、要するに自分の車の基準を、自分以外の人が同乗している時間だけ一段下げるということです。
早朝の住宅街で、いちばん響くのは低い回転域
近所への配慮という話になると、多くの方が「高回転を使わない」と考えます。それ自体は正しいのですが、実際に住宅街で問題になりやすいのは、高い音より低い音です。
音の高さによって、障害物の越え方が違います。高い音は直進性が強く、壁やフェンスにぶつかると反射して減っていきます。ところが低い音は波長が長いため、壁の縁を回り込んで向こう側へ届きます。塀の内側にいても聞こえるのは低い音のほうだ、と考えると分かりやすいと思います。
むき出しのフィルターで増える音のうち、低い回転域で出る「ボー」という帯域は、まさにこの回り込む側です。そして低い回転域は、皮肉なことに住宅街をゆっくり走っているときに最も使う回転域でもあります。高回転まで回す機会は路地にはありませんから、実際に近所へ届いているのは、静かに走っているつもりの音のほうなのです。
もうひとつ、時間帯の問題があります。早朝は周囲の生活音が少ないため、同じ音でも際立ちます。冷えている状態のエンジンは回転がやや高めに保たれることが多く、アイドリングそのものも普段より大きくなりがちです。始動してすぐ走り出さず、暖機のために停めたまま置いておく時間が、いちばん近所に届いているという状況は珍しくありません。
現実的な運用としては、この三つです。
- 始動したら、なるべく早く動かす。 停まったまま音を出している時間を短くする
- 路地を抜けるまでは、アクセル開度を小さく保つ。 ギアを上げて回転を落とすより、開度を抑えるほうが吸気音には効きます
- 停める向きを見直す。 吸気口が隣家の壁に正対していないか、明るいうちに一度確認しておく
なお、音量に関する法規や検査での可否については、車両の仕様や測定の条件によって判断が分かれる領域ですので、ここで断定的なことは申し上げられません。ご不安があれば、事前に検査を受ける場や整備をお願いしている工場にご相談ください。
遮熱シールドは、音の面でも少しだけ効く
本来は熱のための部品ですが、音の話でも触れておく価値があります。当店のP15 断熱プロテクションシールド(¥4,500)は軽量アルミ合金製で、エンジンルーム内の熱気を遮り、吸気温度をおよそ10〜15℃下げることを狙った部品です。サイズはLargeとSmallの二種類があります。
熱の話は既刊のむき出しエアクリは熱を吸うにまとめましたので、ここでは音の側面だけを書きます。板を一枚立てると、その方向へ出ていく音の直進は遮られます。先ほど書いたとおり、高い帯域ほど直進性が強いので、板の効果も高い音に対してのほうが分かりやすく出ます。ボンネットを開けたときに感じる耳障りな鋭さが、少し丸くなる。そういう程度の変化です。
ただし、期待の水準は正しく置いてください。これは消音器ではありません。純正の箱が持っていた共鳴室のような、特定の音を打ち消す機能はありませんし、回り込む低い音に対してはほとんど効きません。音のために買う部品ではなく、熱のために買った部品に音の副次効果が少しある、という順番で捉えるのが正確だと思います。
それから、既刊でも書いた原則をもう一度。囲いすぎないこと。音を減らしたいからと全周を塞げば、フィルターは吸う空気を失います。むき出しにした狙いを自分で打ち消してしまっては本末転倒です。熱い側と、水の跳ね上げが来る側を選んで塞ぎ、冷たく乾いた空気が来る側は開けておく。サイズを選ぶときは、フィルターの外形と周囲の余地を先に測ってください。ラインアップはパフォーマンスのコレクションにまとめています。
付けたあとで戻せる、という前提を持っておく
最後に、いちばん実務的な話をします。純正のエアクリーナーボックス一式を、捨てないでください。
これは「後悔したときのため」という後ろ向きの話ではありません。車の使い方は変わるからです。引っ越して駐車場と隣家の距離が変わる。家族が増えて、乗せる相手が変わる。通勤の時間帯が変わって、出発が朝六時になる。そのどれもが、音に対する適正値を動かします。判断が変わったときに元へ戻せるなら、今の選択はずっと気楽なものになります。
保管のコツは三つです。
| 残すもの | やっておくこと | 理由 |
|---|---|---|
| ボックス本体・ダクト | 大きめの袋に入れ、日付を書いて室内に置く | 屋外や車庫の床に置くと樹脂が劣化しやすい |
| クリップ・ボルト・バンド | 小袋にまとめ、本体の袋に同梱する | 紛失するのは決まって小物のほう |
| 外す前の状態 | 取り外し前に写真を数枚撮っておく | ホースの取り回しは記憶では戻せない |
写真については、私たちも試作を分解するときに必ず撮ります。元に戻す作業でいちばん時間を食うのは、部品そのものではなく「どこに何が刺さっていたか」だからです。スマートフォンで四枚も撮っておけば十分です。
そして、むき出しにしたあとの手入れについては、季節ごとの汚れ方や雨の日の注意点をむき出しエアクリの掃除と、雨の日にまとめました。音のことが落ち着いたら、次はそちらを一度読んでみてください。
まとめ:音のことで迷ったときに確認すること
吸気音は、性能を取りにいった結果として付いてくるものです。消すことはできませんが、どこで出ていて、誰に届いているかを把握しておけば、付き合い方は決められます。
- 純正の箱は消音器でもあった。音が増えるのは副作用ではなく、構造変更の必然的な結果だと理解しておく
- まず吸気音か排気音かを切り分ける。アクセル開度に即座に付いてくる前方からの音が吸気音
- 停車状態で誰かにエンジンをかけてもらい、車の外に立って聞いてみる
- 運転席の感覚を基準にしない。同乗者は音を予測できないぶん、大きく感じている
- 聞き返しが二度あったら、音量の合図と考える
- 住宅街で届いているのは高回転の音ではなく、低い回転域の回り込む音
- 始動したら早く動かす。停まったまま音を出している時間をできるだけ短くする
- 停車時に吸気口が隣家の壁へ正対していないか、明るいうちに確認する
- 遮熱シールドは音にも少し効くが、消音器ではない。囲いすぎない
- 法規や検査での可否は断定できない。不安があれば事前に相談する
- 純正一式は日付を書いて室内に保管する。外す前の写真を四枚撮っておく
明日の朝、いつもより少しだけ早く運転席に座ってみてください。エンジンをかけて、そのまま三十秒だけ何もしない。そのとき自分の耳に届いている音が、そのまま隣の家の窓に届いている音です。判断の材料は、それだけで足ります。
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