外したステアリングの置き場所問題|クイックリリース運用を続けるためのハンガーとマウント

走行会の帰り、クイックリリースでステアリングを外して助手席に置き、コンビニに寄る。戻って持ち上げると、リムの裏側に白い線が一本。シートベルトのバックルと擦れた跡です。ドライカーボンの艶面に入った傷は、磨いても消えません。あるいは、後席に転がしておいたら曲がり角で床に落ちた、足元に置いたら踏みそうになった。クイックリリースを付けた人が最初にぶつかるのは、外し方ではなく、外したあとの置き場所です。
量産車の設計では、「使っていない状態」も設計の対象です。サンバイザーは畳んだ姿まで面を整え、カップホルダーは空のときに蓋が閉まり、スペアタイヤは床下に収まる。ところが、ステアリングを外して使うことを前提にした量産車は、まずありません。だから「外したステアリングをどうするか」は、量産の設計ではほとんど考えられてこなかった空白です。当店がハンガーとハブマウントという二つの小さな部品を作ったのは、その空白を製品の一部として埋めたかったからです。
この記事では、クイックリリースを付けた人がステアリングを外す三つの理由を整理したうえで、ルームミラーやロールケージに掛けるハンガーと、任意の位置に固定するハブマウントの使い分け、ゲーム用のリグに流用できる理由、そしてカーボンのリムを傷めない保管の基本を説明します。
助手席に転がしたカーボンリムに傷——外した後のことは誰も教えてくれない
ステアリング交換の記事や動画は、ボスの選び方と取り付けまでで終わります。クイックリリースの説明も「ワンタッチで外せる」までで、外したものの行き先には触れません。当然です。売る側も付ける側も、外す瞬間までを製品だと思っているからです。
けれど、実際に運用を始めると、外している時間のほうがずっと長いことに気づきます。駐車場に停めている間、ずっとステアリングはどこかに置かれている。ドライカーボンは強くて軽い素材ですが、表面のクリア層は金属のバックルや鍵に対しては普通の塗装面と同じで、擦れば傷が付きます。グロス仕上げのW01 ディーピー(¥48,000)のような艶面は特に傷が目立ち、マット仕上げのW03 Dマン(¥48,000)は擦れた場所だけ艶が出ることがあります。どちらも、置き場所を決めていないことが原因で起きる傷です。
クイックリリースを付ける人が外す3つの理由(乗降・防犯・見せる)
そもそも、なぜ外すのか。当店に届く声を整理すると、理由は三つに集約されます。
| 理由 | 状況 | 外している時間 |
|---|---|---|
| 乗降 | フルバケットシートとディープコーンの組み合わせで、リムが近く脚がくぐりにくい。外せば乗り降りが楽になる | 乗り降りの数十秒 |
| 防犯 | ステアリングの無い車は運転できない。持ち去りへの抑止力として外して保管する | 駐車中ずっと |
| 見せる | ガレージやイベントで、外したステアリングを飾る。リム自体が作品 | 展示している間 |
三つの理由で「外している時間」がまったく違うことに注目してください。乗降のためなら数十秒だけ一時的に持てればいい。防犯なら駐車中ずっと安全に置ける場所が要る。見せるなら、置いた姿そのものが美しくなければ意味がない。置き場所の答えは一つではなく、理由によって変わります。なお防犯については、ステアリングを外すことで持ち去りが完全に防げるわけではありません。あくまで抑止の一つと考えてください。クイックリリースとボスの基本はステアリング交換の基礎知識にまとめています。
ルームミラーやロールケージに掛ける:ドライカーボン製ハンガーの使い方
A04 ステアリングハンガー(¥4,800)は、CNC加工のドライカーボンで作ったステアリング用のハンガーです。大きさは60mm×85mm、ストラップが付属し、ルームミラーやロールケージに取り付けて、外したステアリングを掛けておけます。乗降のために一時的に外すときと、駐車中に車内で保管するときの両方に使える、最も手軽な置き場所です。
取り付けは、付属のストラップでミラーの付け根やケージのバーに固定するだけです。設計で気を配ったのは、ハンガー自体が車内で悪目立ちしないことでした。ドライカーボンの小さな板が一枚、ミラーの下に下がっている。ステアリングを掛けていないときにも、それが「何かのための場所」に見えるように、余計な形を足していません。ドライカーボンとウェットカーボンの違いは素材の記事で書きましたが、ハンガーにドライカーボンを使ったのは、軽さと、ステアリングと同じ素材で揃えるためです。
掛けるときに、表と裏のどちらを車内に向けるか。設計者としては表、つまりホーンボタンとスポークの面を室内側に向けることを勧めます。理由は二つあります。一つは、スポークの面がステアリングの「顔」であり、窓越しに見えたときに最も造形が伝わること。もう一つは、裏面のクイックリリース側にはボルトの頭や金属部分があり、これを車内の内装材に向けると接触したときに傷を付ける側になることです。表を見せ、金属側を外に向ける。それだけで掛けた姿が展示になります。
ただし、ルームミラーに掛けたまま走行しないでください。後方の視界を妨げますし、走行中に揺れて内装や乗員に当たります。ハンガーは駐車中の置き場所であり、走行中はステアリングはコラムに付いているのが正しい位置です。
任意の位置に固定する:ハブマウントとアルミフレームの相性
「もう一つのコラム」としてのハブマウント
掛けるのではなく、決まった位置に「装着」したい人のための部品がA08 ステアリング ハブマウント(¥3,200)です。幅側のM6ボルトで本体を固定すると、その場所がステアリングのもう一つの取り付け先になります。WORKS BELLおよびNRGのクイックリリースハブと互換性があるので、車で使っているのと同じ動作で、外したステアリングをカチッと固定できます。
これが、冒頭で書いた「外した状態を製品の一部として設計する」の具体的な形です。ステアリングは、車に付いているときはボスとクイックリリースで固定されている。外したときにも、同じ規格で固定される場所がある。付いているか、外れているか、の二択ではなく、「どちらに付いているか」の二択にする。落ちない、擦れない、転がらない。ハンガーが「掛ける」ならば、ハブマウントは「もう一つのコラム」です。
固定先は自由です。ガレージの壁に取り付けて、駐車中に外したステアリングを飾る。工具棚の脇に付けて、複数のステアリングを並べる。車内なら、内張りの裏に補強を入れた上でセンターコンソールの後方やトランク内に固定する、という使い方もあります。ハブマウントに装着したステアリングは、必ず表を見せる向きになります。クイックリリース側がマウントに嵌るので、飾ったときに自然に「顔」が前を向く。ここも設計の意図です。
ミスミ製アルミフレームに取り付けるための専用アダプターが付属しています。アルミフレームは、断面に溝の入った規格化されたアルミの押し出し材で、工場の設備や作業台、そしてゲーム用のリグの骨組みとして広く使われているものです。溝にナットを入れてボルトで締めるだけで、好きな位置にマウントを付けられます。
ゲーム用ステアリングにも流用できる理由
アルミフレーム用アダプターが付属している理由は、ここにあります。ドライビングシミュレーターのリグは、多くがアルミフレームで組まれています。そこにハブマウントを固定すれば、実車で使っているステアリングの置き場所をリグの脇に作れますし、ゲーミング用のステアリングホイールの固定にも使えます。
設計の立場から言うと、クイックリリースという規格がステアリングを「車専用の部品」から「持ち運べる道具」に変えました。同じ規格で固定できる場所があれば、車でもガレージでも机の横でも、同じ一枚のリムが使えます。W03 Dマンのような320mmのD型を実車で使っている人が、リグでも同じ握りで練習したい、と考えるのは自然な流れです。マウントは、その流れを受け止める部品です。
ハンガーとハブマウント、どちらを選ぶか
二つは競合する部品ではなく、外している時間の長さで選び分けるものです。迷ったときの目安を表にしました。
| 比べる点 | A04 ステアリングハンガー(¥4,800) | A08 ステアリング ハブマウント(¥3,200) |
|---|---|---|
| 固定のしかた | ストラップで掛ける | クイックリリースで嵌める |
| 取り付け先 | ルームミラー、ロールケージ | ボルトを打てる面、アルミフレーム |
| 向いている使い方 | 乗降のとき、駐車中の一時保管 | 防犯や展示など、定位置に置くとき |
| 設置の手間 | 工具なしで取り付けられる | M6ボルトでの固定作業が必要 |
| 出し入れの速さ | 掛け外しが速い | クイックリリースの操作が一手入る |
乗り降りのたびに外す人はハンガー、駐車中ずっと車内やガレージに置く人はハブマウント、と考えると選び間違えません。両方を併用して、車内はハンガー、ガレージの壁はマウント、と役割を分けている方もいます。
もう一つの判断材料は、掛けた状態でステアリングがどこまで張り出すかです。リムの径は320mmから375mmまでありますから、取り付け点から半径の分だけ外側に広がります。ミラーの下に掛ければ助手席側の視界に少しかかりますし、壁に付ければ壁から手前に飛び出します。位置を決める前に、実際にステアリングを手で持ってその場所にかざしてみて、人の通り道や視界にぶつからないかを確かめておくと失敗しません。
傷・変形を防ぐ保管の基本(直射日光・荷重・接触)
置き場所が決まったら、最後は扱い方です。カーボンのステアリングを長く綺麗に保つための基本を、原因別に挙げます。
- 直射日光:カーボンの表面のクリア層は紫外線で劣化します。駐車中にダッシュボードの上に置くのは最も避けたい状態です。ハンガーやマウントで日の当たらない位置に。
- 荷重:リムの上に荷物を載せない。ドライカーボンは変形しにくい素材ですが、表面のクリア層は荷物の角で傷付きます。
- 接触:シートベルトのバックル、鍵、工具、スマートフォンなど、硬いものと同じ場所に置かない。助手席に置く運用の傷は、ほとんどがこの接触です。
- 汚れ:手の油やグローブの摩擦は乾いた柔らかい布で拭く。グロス面は指紋が目立ちやすく、マット面は擦れると艶が出ることがあるので、どちらもこすらず押さえるように拭く。
- 持ち運び:車外に持ち出すときは、布の袋に入れるか、表面を内側にして布で包む。金属のクイックリリース側を外に向けて、他のものに当たっても表面が傷まないようにする。
これらは全部、「置き場所を決めていない」ことから起きる問題です。ハンガーかマウントで定位置を作った時点で、上のリストの大半は自動的に片づきます。
よくある質問
Q. ハンガーはどの車のルームミラーにも付きますか?
ストラップ式なので多くのミラーステーやケージのバーに取り付けられますが、ミラーの付け根の形状や太さによっては掛けにくい場合があります。取り付け予定の場所の形を確認のうえ、判断が難しければお問い合わせください。
Q. ハンガーに掛けたまま走ってもいいですか?
お勧めしません。後方視界を妨げ、走行中に揺れて内装や乗員に当たる恐れがあります。駐車中の置き場所として使ってください。
Q. ハブマウントは、どのクイックリリースでも使えますか?
WORKS BELLおよびNRGのクイックリリースハブとの互換性を確認しています。それ以外のメーカーのものは、規格が異なる場合があるので事前にご確認ください。
Q. ステアリングを外しておけば、盗まれませんか?
運転はできなくなるので抑止力にはなりますが、持ち去り自体を完全に防ぐものではありません。あくまで複数ある対策の一つと考えてください。
まとめ
クイックリリースの運用は、外したあとの置き場所を決めて初めて完成します。
- 外す理由(乗降・防犯・見せる)で、必要な置き場所の性格が変わる
- 一時的に掛けるなら、ミラーやケージに付けるドライカーボン製ハンガー
- 定位置に固定するなら、クイックリリース互換のハブマウント
- 掛けるときは表(スポークの面)を室内側に、金属側を外に向ける
- 走行中はハンガーに掛けたままにしない
- 直射日光・荷重・硬いものとの接触を避ける
外した状態まで含めて一つの製品として考える。それが、置き場所という小さな問題に対する設計者の答えです。ステアリングホイールの一覧には、ハンガーとマウントも並べています。
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